- 運営しているクリエイター
#ファンタジー
(中編小説)ちび神様と夜空の花 後編
三.カヤリ
予報にもなかった突然の夕立が降り始めたのは、絵里が家に帰り着くなり突然のことだった。
「雨止まないわねえ」
「うーん」
台所の母の千里の声に、絵里は縁側で膝を抱えたまま生返事をかえす。
「灯籠とか、花火とか大丈夫かしらねえ」
「うーん……」
「聞いてるの?」と呆れた声が飛んできたが、絵里は無言で膝を抱え直した。
目前の庭の風景は、無数の雨の線に遮られて霞がかったように映る。雑
(中編小説)ちび神様と夜空の花 前編
一.不思議な赤色
真夏の射すような日差しも、夏林の豊かな青葉が生い茂るこの場所までは届かない。
静寂の落ちる涼やかな雑木林の神社は、今日も訪れる者などいない――はずだった。
コトリ
控えめな音が響き、本殿の低い階段を上った賽銭箱の向こう、古びた引き戸がすうっと開く。中からひょこりと顔をのぞかせたのは、萌葱色のかすれ十字の着物を着た、小さな男の子。
彼は落ち着かない様子できょろきょろ