逆境はどこへ①
旅の始まり
排水溝の中に潜り込んでいく日本とは毛色の違うネズミを脇目に街の中心部を目指す。
時刻は深夜1時。
こればかりは「SOLO MUJERES(女性のみ)」という説明を見逃した私が悪い。
30分ほど歩き、少し明かりが灯った連邦政府庁舎前のベンチに腰をかける。
「あぁ、就職を選んでいたならば
4月から始まる大手町生活に期待を膨らませ、
今頃日本で大いなる自尊心と共に生きていただ
ろうに。 一体何故私は今こんな地球の裏側に
来てしまったのだろう。
今から泊まれるホテルなんてあるのだろうか。
探すのも面倒臭いし、いっそここで寝てしまう
か。」
しかし両手にはスーツケース。30m先には”如何にも”な若者5人。そして日本語が記されている服を着て縄跳びをするおじさん。
とりあえず近くのホテルを片っ端から周り、なんとか見つけることができた。
痛い出費だが、初日から無一文になるよりはマシだ。
すでに時刻は深夜4時。ホテルの部屋で次の日から泊まるエアビを探す。「SOLO MUJERES」と書かれていなければどこでも良い。
朝起きてアプリを確認すると、ホストから「受け入れ許可」のメッセージが届いていた為すぐに向かった。
ホテルから歩いて約10分、縦長の少し古びた建物についた。
出迎えてくれたのはアレクサンダー。チリからの留学生だ。
荷物を部屋に置いた後、共同スペースの案内が始まる。
運よく彼は英語が話せた為、難なく事は進んだ。
先に記すが、このエアビには自分以外にも多くの外国人が住んでいた。
上記のように、アメリカ大陸中心に国際色豊かなメンバー(他にもベネズエラやコロンビア出身の人など)で1週間過ごす事になった。
その日はオベリスクなど街を軽く散策し、帰宅後すぐに入眠。
初期タスク
まず最初のタスクは以下4つ。
・ブルーレートでの換金
・SIMカード購入
・家探し
・チーム探し
上記に加え「SUBE購入」というサブタスクも加わり、5つのタスクを解決する所から始まった。期限は1週間。
SUBE購入
2日目の朝、共同スペースにて朝食を食べた後、近くにいたアレクにSUBEの在処を尋ねた。彼曰く近くのKIOSKに売っているとのことだったので、早速向かう。
「SUBEが欲しい」と言うと、ここには売っていないと言われた。Google翻訳を用い、どこならば買えるかを尋ねた。曰く、3ブロック先を左に曲がったKIOSKとの事。
しかし向かった先のKIOSKでも売っていないとの事。そしてまた別のKIOSKを案内された。「SUBE」と書かれた貼り紙があったので期待したが、チャージスポットのみでカード本体は売っていなかった。
しかしここで新たな情報が手に入る。Metro(地下鉄乗り場)に直接行けば買えるらしい。
しかし向かった先のMetroでも、チャージスポットが置いてあるだけで売っていなかった。
「情報どうなってんねん、、、」
その後片っ端からKIOSKや駅に尋ねたが売っておらず、気づけばオベリスク近くの中心街まで出てきてしまった。
流石に諦めかけた時、近くの歩道沿いにあった新聞や雑誌、サッカーチームのキーホルダーを売っている小売店が目に入り、駄目元で尋ねてみた。すると売っているとの事。
値段は2000ペソ(300円〜400円)。
しかし残念ながらクレカでは購入できないとの事だ。
今財布の中にはロサンゼルスで換金したドル札しか入っておらず、現金(アルゼンチンペソ:ARS)を手に入れなくてはならない。
後でまた来るとの旨を伝え、次のタスクを完遂すべくフロリダ通りに向かった。
ブルーレートでの換金
SUBEと同様、アレクに尋ねた。
私:「ブルーレートで換金したいんだけど、どこでできる?」
ア:「フロリダ通りに行け。そこにcambio(カンビオ)がある。」
私:「cambioというのは両替所の名前か?」
ア:「いや違う。カンビオ〜カンビオ〜って言ってる人がいるからその人に
渡せ。」
全く意味がわからなかったが、とりあえず言われた通り指定された場所へ行った。
すると本当に、「カンビオ〜カンビオ〜」と言っている人が居たのだ。しかも5人ほど(15mスパンで)。
最初に目が合った人に引き込まれ、ドル(確か60ドル)を渡す。
すると彼は腰に巻いているウエストポーチを開けた。
そこには多額のドル札とペソが入っており、合意した金額分のペソを取り出して私に渡した。
そして後にすると、彼は再び「カンビオ〜」と道行く人への声を再開した。
一体彼は何者なのか、どんな職業なのか、そもそもこれは職業なのか、疑問は増えるばかりだったが一旦脳の片隅に置き、SUBE購入タスクに戻った。
少し歩くと先ほどと同じような小売店があったので、その店で購入することにした。ちなみにここでは1500ペソ。おそらく公的機関が発行しているにも関わらず、値段が統一されていないというのも非常に興味深い事である。
SIMカードの購入
私は最も安いTwentiのSIMカードを購入しようと考えた。
しかし他のキャリアとは違い、TwentiはKIOSKで売っていなかった。
アレクもどこに売っているか分からないとの事。
そこで私は、大学の友人から紹介してもらった日系人の友達(アルゼンチン在住)に尋ねる事にした。
どうやらTwentiはオンラインでしか買えない且つ、DNI(日本でいうマイナンバー)が必要らしい。
勿論私は持っていない。しかし、その友人がDNIを貸してくれた為、購入することができた。3日後家に届き、街にあるPago Facilという所でチャージをして、無事使えるようになった。
ちなみに1ヶ月12Gで1000ペソ。日本円にして約160円という破格の値段だ。
チーム探し/家探し
最難関と思われていたこれらのタスクだが、左程苦労せずに達成することができた。
今回唯一頼っていた日本人の方がかつての所属チームに連絡を取ってくれ、練習に参加できる事になったのだ。そして家に関しても、チームの代表が保有している家を通常より安く貸してもらえる事になった。
そのチームはピナマールという地域にある。
ピナマールは海沿いにある街で、夏には多くの観光客がバカンスにやってくるリゾート地。現在住んでいるcapital federal(日本でいう東京23区)からはバスで5時間。距離にして約360kmであり、東京から仙台までの距離とほぼ同じだ。
友人の力を借りながら、WEBにてピナマール行きのバスチケットを購入。
次の日の13時、アレクやアドリアンに別れを告げてエアビを後にする。
そして、出発予定時刻の1時間前にバスターミナルに到着した。
出発の15分ほど前になると、各所に設置してある電子版にバス会社名が載る仕組みらしい。
しかし、10分前、5分前になれどPlusmar社(14:45発)の名前が出てこない。
そして5分、10分と過ぎても掲載されない。自分の把握ミスで乗り過ごしてしまったのを覚悟しつつ、駄目元でインフォメーションセンターらしき場所に行き、Google翻訳を用いて尋ねる。
すると「お、ちょうど来たぞ。あれだ、あのバスだ。」
そう、ここは日本ではない。
capital生活中、バスや地下鉄が時間通りに来るので、意外と時間にルーズではない国なのかと思っていたが、やはりそんなことはなかった。
予定時刻から30分遅れでバスは出発。
目的地のピナマールまで、草原に囲まれた一本道をただひたすらに走り続けた。
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