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不安を分割払いにする

初めての場所を運転するのが苦手だ。
特に到着時間が指定されていようものなら1ヶ月前から胃がキューッとなる。


長男に「東京に行くから空港まで送り迎えしてほしい」と頼まれ、私の背筋は硬直した。そんなとこまで運転したことがない。数分おきに出る電車と違い、飛行機となると遅刻は許されない。怖すぎる!これは練習が必要だ。早速運転の予行演習にでかけた。事前にグーグルマップで大体の行き方は勉強したが、カーナビで提示されたルート候補がどれも違う気がする。とりあえず一つ選択して行ってみることにしたが、ナビは道路に出てくる「空港こっち」という標識をことごとく無視する。私の断りなく途中でルートを変え、「ジュウタイ ヲ カイヒ シマシタ」と事後報告でドヤる。ナビの情報が古いのだろうか。私が使いこなせてない説が濃厚ではある。

最初なのでナビを信じて進んだ結果全然違うところに着いた。ナビは黙っている。予定所要時間を大幅に上回っていて、「これが当日一発勝負だったら」とゾッとした。念のため途中まで戻ってもう一度今度は標識に従って行き、ちゃんと目的地に着くことができた。帰りは往路を戻って道を覚えたかったのにまたもやジュウタイカイヒを召喚され、よくわからないままに帰宅。夜、長男に「一旦駅まで出て空港行きのシャトルバスに乗ったほうが早いですよ」と進言した。

結局シャトルバスではなく私の運転で行くかということになり、心配症の身としてはもう一度予行演習が必要だった。今度はナビに頼らず前回よりタイムをどのくらい縮められるかのタイムトライアルだ。

二度の予行演習の甲斐あって、道は完全に私のものになり出発当日は余裕を持って無事送り届けることができた。

そして翌日の夜遅く、帰ってきた長男を空港まで出迎えポツポツと東京話を聞き出しながら車を走らせていたら、後方から猛烈な勢いでパトカーに追い越され、前方からはこれまた猛烈な勢いの救急車とすれ違った。進んでいくと車二台が二階建てに重なり合う大事故が起きており、あと少し早かったら巻き込まれていたかと思うと冷や汗が出た。通行止めになっており、交通整理をしている警察官に右折を促される。土地勘のないところでのイレギュラールートに緊張が走る。しかしどうしたことだろう、なぜか見覚えのある道だ。偶然にもちょうどそれは予行演習の時に通ったジュウタイカイヒのルートだったのだ。「わかる…!わかるぞ!ここ、チャレンジでやったとこだ!」である。運転の不安を分割払いにするべく行った予行演習が思いがけず役に立った。

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