見出し画像

「日本語教師」という仕事。

「日本語教師」と聞くと、どういうイメージがあるだろうか。

「国語の先生じゃないの?」「いろんな外国語できるんでしょ?」などと、よく言われる。
ちょっと違う。いわゆる国語の先生じゃないし、必ずしもみんな外国語が話せるわけではない。外国人に、日本語を教える先生、それが日本語教師である。資格さえあれば、仕事のチャンスは国内外にけっこうある。今回は、国内の日本語学校での教師歴4年(もう4年!?)のまだまだケツの青いペーペーの私が、ちょこっとだけ、日本語教師と日本語学校について、思うところを書いてみたい。


高校のときに、日本語教師になりたいと思い、大学で日本語教育を学び、3年次には日本語学校という現場に入り、卒論と授業案に追われる日々を過ごした。学生ながらに仕事しているという感覚は楽しかった。忙しい日々の中で、花金にははっちゃけて遊ぶことの大切さも学んだ。社会人がどうして金曜日にあんな風になるのか、謎が解けた。
社会人になると同時に、都内の日本語学校の正社員として働いた。慢性的な人員不足で、新卒をイチから育てる余裕はどこもない。中途採用の即戦力になる人を正社員として雇うのが定石の業界なので、学生時代から非常勤教員として現場にいた私はラッキーだった。もともと英語学習が好きだった私は、日本語の面白さにも目覚め、学生と年齢が近いこともあり、良好な関係を築くこともできていた。


ただ、やはり楽しいことばかりではない。

一つ目は、日本語は難しい。自分たちでもよく間違えるし、言葉の変化が激しい言語である。動詞の活用(行く、行きます、行って、行った、行かない、行け、行こう等)、敬語の種類の多さ(丁寧語、尊敬語、謙譲語)、意味は同じだが微妙に使い方や使えるシチュエーションが違う文法を、外国人に教える。やさしい日本語を使い、絵、グラフ、ゲーム、カード、小道具を用意して演技までする。日本語教師に必要なのは、演技力、ハッタリ力とよく言われたものだ。
つまり、教師側の授業準備にやたらと時間がかかる。もっと言えば、授業準備の時間は、時間外労働が一般的だ。タイムカードを切って残業するか、家に持ち帰り。毎日授業はあるので、当然、クオリティが保てない。

二つ目は、ハードワークだが、給料が少ない。一般企業の新入社員の給料があればマシ。あったとしてもそれが、ずっと上がらない感じ。ベテランでもだ。ボーナスがあるような会社はほぼない。
だから将来のことを考えて、転職する人が多い。それか、リタイアした年配の先生も多い。結婚している女性が多い。男性が入ってきても、家族を養っていけない、割に合わない、といって辞めてしまう。精神的に続けられなくなり、突然来なくなった先生もいる。民間資格である日本語教師免許を国家資格になれば、経済的に安定するので、そのような活動している先生も多いが、一向に変わらない。

三つ目。学習者のモチベーション。主にアジア人の学生は、日本語の勉強よりも日本で働いて家族に仕送りしたい。いわば留学生とは名ばかりの出稼ぎ労働者。授業の前後や、夜勤で働いて、留学生ビザの更新のために必要な出席率のためだけに、学校にくる。が、寝る。それか、やる気なし(ちゃんと頑張る学生も少数派だがいる)。
家族への仕送り以外にも出費はある。日本語学校に留学生を紹介する現地の仲介業者は、高額な手数料を取るため、留学生は来日のために借金をすることも少なくない。彼らは「日本で働けばお金持ちになれる。」と言う。留学生なのに、さもたくさん働けるかのように伝える。
時給がいい引っ越しの会社(荷物の仕分け等)や居酒屋の厨房は、日本語が上手である必要はない。勉強しなくても稼げるのだ。逆に授業時間を睡眠時間にあてることで、授業が終わり次第、アルバイトに行ける。教師が学生を起こしたり、注意したりすると逆ギレ。信頼関係もクソもない。関係悪化。

四つ目に、政府は留学生に来て欲しがっているのに、受け入れ体制が整っていない。留学生をサポートするシステムがあまりない。日本人はいまだに、外からきた「よそ者」に厳しい。外国人だから、日本語がわからないからという理由だけで、最低賃金を下回った給料で働かせたり、日本人がやりたくないことをやらせたり、長時間労働させたりする。また、近年、大都市を中心に日本語学校は乱立しているが、クオリティが低く、違法なことをしている学校も多いと聞く。法務省のチェックも甘くなる。
と、ざっと挙げただけでもこんな感じ。
国際交流への憧れだけで、続けられる仕事ではない。先に挙げた問題は、日本語学校だからという理由もあるが。

いろいろ書いたが、やりがいを重視するなら、面白い仕事であることは間違いない。
日本にいながら、一つの教室の中で、多国籍の学生と国際交流ができる。たくさんの価値観、言葉や文化、国のオススメスポットまで一気に網羅し、世界中に友達(学生)がいるようになる。日本語ができるようになれば、学生たちの将来の可能性を広げられる。そのサポートができる。手のかかった学生ほど、卒業のときの感動はひと塩。卒業後もことあるごとに連絡をくれたりする。


必要な仕事であり、意義のある仕事だと思う。日本語教師になりたい、と思う人が増えてほしい。が、できれば、今後日本語教師を目指してくれる人のために、今、現場で頑張っている先生のために、そして何より日本という外国で、寂しくも懸命に暮らしている留学生のためにも、現状が少しでもよくなればいいのに、と、ぼんやり思うのだ。

(2020.5.1 執筆。誤って削除してしまったため、再投稿。noteって、復元機能はないのですね、、)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?