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エビデンス無き日本の教育に『「学力」の経済学』

ほぼ毎日読書し、ほぼ毎日読書ログを書いています。

『「学力」の経済学』(中室牧子)

本書では、教育経済学という、

「教育」を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている応用経済学の一分野

の視点で、エビデンスベースで教育行政を行っている他国の研究事例や実験の内容を紹介し、日本人の多くがうすぼんやりと信じてきた定説という名の主観を突き崩す。

子育てや子供の教育において、ご褒美で釣ってよいのか、ゲームやテレビを与えてもよいのか、褒めた方が良いのか。家庭環境の影響は、親の学歴や年収は影響するのか、地域特性は関係あるのか、教師の質は、友人関係は。

本書では、最新の研究事例をひくことで、前述のような疑問に、新しい常識を示してくれている。

その内容は、本書の「はじめに」で、

経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てにかんする発見は、教育評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よっぽど価値がある

と言い切るだけに、意外な結果を示すものもあって大変に面白い。

だが、本書が明らかにするのは、そういった個々のトピックについて、面白がったり、一喜一憂したり、正しいか否かを追い求めたりとか、そういった類の事ではないようだ。

第一、そういったトピックの多くは、新しいデータや、新しい視点が出てくれば幾らでも覆る。

本書が言いたいことはそういう事ではなく、日本でもちゃんと科学的な調査を通しデータを蓄積し、そのデータを使い事実を明らかにし、それをふまえて教育を子育てを、そして政策提案をしていこうぜ、という態度の提案だ。たぶん。

本書でも紹介されているが、日本の教育行政はよほどサイエンスとは縁遠い、主観と思い込みに満ちた世界だ。これを正していこうという意見には大いに賛成したい。

教育にエビデンスを。(P161)

大賛成。

とはいえですよ、本書で紹介されている様々な話題、実際の子育てや、子どもの教育に役立たないかというと、まったくそんなことは無いです。

どのように子供と接すれば学力が伸びるのか、教育にはどのように投資をしてゆけば一番効率が良いのか。書かれている事はとても興味深いし、参考にしたいことも多い。

ただ、その手の話は、大いに参考にはなるが、全てまるっと信じて良いものではないだろう。

それよりも、客観的な事実を見極め、受け入れる親の力が大事だという事実を受け入れたい。

子供とはいえ、一人の人間。すべてをコントロールし、何でも言う事を聞かせるなんて、どうせ無理だ。十分に承知している。

だた、出来る限りの範囲でも正解に近い環境を用意し、無駄な回り道をしないよう、気を使ってあげる事はできるだろう。そういった意味でも、この手のトピックは常に最新の話題を追いかけていきたい。

人間がどのように育つのか、それは、どのような環境に居るのかが大きくかかわってくる。そして、幼い子供をどのような環境に置くのかは、親の裁量が大きくかかわる。身も蓋も無いが、どんな親に育てられるかで子が資質を伸ばせるか否かが決まってしまう。引き締めていこう。


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