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アインシュタインすら霞む大天才 『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』(高橋昌一郎)

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。458冊目。

ジョン・フォン・ノイマンの生い立ちを追いながら、数々の業績の裏に隠された彼の哲学を紹介する1冊。

ノイマンといえば、情報処理なんかをかじった方にはおなじみノイマン型と呼ばれるコンピューターの基礎的な形を作り出した大天才としておなじみだろう。

もしくはゲーム理論成立への貢献か、量子力学、数学への貢献、気象予報、経済学への貢献か。

核兵器開発の中心人物の一人としてか。

とにかく何かしら名前は聞いた事があるに違いない。

凄まじい人物だ。Wikipediaで逸話を読むだけでおなかいっぱいになってしまいそうになるくらい人間離れしている。

あまりにもずば抜けているため、同時代に生きていたアインシュタインやその他大勢の偉人達が霞んでしまうほど。

ノイマンの超人的ともいえる能力について、どこかで読んだり聞いたりした方も多いと思う。私も、原爆開発の歴史本やコンピューターの歴史本、ゲーム理論の解説書など、様々な本でその人物の功績に触れてきたので、その名前と顔はよく知っている。

しかし、ノイマンの業績や能力ではなく、人物にフォーカスをあてて紹介した本を読むのは本書が初めてだった。読んでみたら、これまでとは違ったノイマン像を与えてくれる内容で面白く読めた。

内容としては、幼少からのエピソードを追いながら、ノイマンの代表的な業績を紹介していく形になる。

目次
はじめに 人間のフリをした悪魔
第1章 数学の天才
――ママ、何を計算しているの?
――獅子は爪跡でわかる!
第2章 ヒルベルト学派の旗手
――フォン・ノイマンに恐怖を抱くようになりました!
――君も僕もワインが好きだ。さて、結婚しようか!
第3章 プリンストン高等研究所
――ジョニーはアメリカに恋していた!
――朝食前にバスローブを着たまま、五ページの論文で証明したのです!
第4章 私生活
――ゲーデルを救出すること以上に、重大な貢献はありません!
――そのうち将軍になるかもしれない!
第5章 第二次大戦と原子爆弾
――どうして自分には、彼にできたことが見通せなかったのか!
――我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない!
――我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!
第6章 コンピュータの父
――ようやく私の次に計算の早い機械ができた!
――もし彼を失うことになれば、我々にとって大きな悲劇です!
――彼は少し顔を出しただけで、経済学を根本的に変えてしまったのです!
第7章 フォン・ノイマン委員会
――明日爆撃すると言うなら、なぜ今日ではないのかと私は言いたい!
――彼は、人間よりも進化した生物ではないか?

散々語られてきた人物なので、紹介される個々の業績の話には目新しさは無いのだけど、あわせて紹介されるノイマンの人物に関するエピソードが意外にも人間くさいというか、少し俗っぽいところがあったりして、読んでいて意外だった。

これまでの評伝だと、どうしてもそのずば抜けた頭脳に注目が行くので、もっと人間離れした奇人変人のイメージが有ったのだけど、全然そんなことはない。どちらかというと、社交的な人物だったそうで、流されやすいお調子者にも見える。

題に「人間のフリをした悪魔」とある。実際にそう呼ばれていたそうだが、それはノイマンの人間性を度外した哲学にも通ずると紹介される。

ノイマンが核兵器の開発に関わったマンハッタン計画を紹介する五章「第二次大戦と原子爆弾」では

要するに、ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。(P175より)

と紹介し、同時期に原爆開発に関わり罪悪感にさいなまれていたアインシュタインやリチャード・ファインマンとは対照的な書かれ方をしている。

この「悪魔」という表現はイコール「悪」であるという意味ではなく、人間的なものを超越した所に価値観を置いている様子をみての表現だ。

ノイマンの核兵器に対する態度や思想は、マンハッタン計画に関わる大勢の科学者の救いとなる事を狙っての態度なのかもしれない。罪悪感に押しつぶされそうになっていたファインマンは、ノイマンの「我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない」という言葉に救われたとされている。

あわせて、ノイマンが、原爆の完成により何が起こるのか、それを自覚したときにひどく狼狽していたというエピソードも紹介される。

唯物論的で人間性を度外視した態度は、同時期の科学者に共通した態度だったのだろうと思っていたが、これらのエピソードを読み、彼らも人間だったのだなと改めて知ることになり興味深かった。

個人的には、アラン・チューリングのエピソードが読めて面白く感じた。彼がノイマンの助手の話をうけてアメリカに残っていたら、全然違う歴史になっていのかもしれない、なんてことを考えると面白い。本書後書きにもあるけど、現代史を大きく変えただろう「もし」が沢山あるのがノイマンのすさまじさよね。

ということで、非常に面白い評伝でした。おすすめですよ。

ノイマンは、原爆の開発に携わった影響もあり53歳の若さで早逝した。ノイマンの最大の「もし」は「もし長生きしていたら」かもしれない。現代の科学や数学、コンピューター、人口知能はどうなっていただろう。

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