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毎日読書#249 『刑務所の中』(花輪和一)

悪い事をしたら刑務所に入れられる。

子供のころから知ってはいたけど、そこは、どんなところで、中に入るとどのような生活が待っているのか?

子どもの頃は、映画やアニメに出てくるような牢獄を想像していた。縞々の囚人服を着て、足には鉄球付きの足かせを括り付け、鉄格子のドアの中に放り込まれる。そこには刑務所歴の長い同居人が居て「何をやったんだ?」と犯罪の内容を聞いてくる。そして、彼は実は脱獄を準備していて達成間近だったり。刑務所内では犯罪歴と投獄歴でヒエラルキーが決まっていて、刑務官と内通している囚人にタバコを渡すと、なんでも手に入れてくれる。みたいな。

流石に大人になるともう少し現実的なイメージを持つようになる。そこは出来の悪い総合病院のような内装で、軍隊的な刑務官が従順な囚人を笛の合図で右に左に動かして、木工細工を大量生産している。このイメージは完全にテレビでみた刑務所24時だね。多くの日本人にとって、あの手の番組で紹介されている刑務所が刑務所のイメージの源泉になっているのではないかな。

本書は、ガンマニアが高じすぎてついに違法拳銃に手を出し、捕まり、銃刀法違反で三年間の実刑をうけた漫画化が、自分の記憶を頼りに刑務所生活を再現した獄中生活漫画だ。

これを読むと、思った以上に刑務所24時の世界そのままの場所だなとわかるのだけど、視点が囚人ということもあり、その生活の描写が細かい。生々しい。そのうえ、テレビでは放送できないようなところまで描き上げてある。

しかも、淡々と、飾らず、誇張も卑下も何もなく、怒りも無く、悲しみや喜びは薄く、刑務所での日常を丁寧に執拗に描いている。

用足しの最中に刑務官から話しかけられる丸見えのトイレ、点呼と足踏みと掛け声、美味い朝食、消しゴムすら勝手に拾えない刑務作業、用便願い、美味い昼食、週に二回貸し出される古い官本、二日おきに入る垢だらけの風呂、適当な医者、そいて美味い夕食。

この漫画を描く為に、取材兼潜入取材の為に実刑を食らったのではないかと思わせるほどのディテール。

驚くのは、割と自由が多い事。5人で入る部屋には、テレビもあるし、コンビニで売っているような雑誌も読める、プレイボーイも読める。文具を買い書きものも出来る。なんだ、意外に住めば都、快適そうじゃないかと思う。

ちょっとくらいなら刑務所生活も悪くないのでは? なんて思ってしまうほど。いや、嫌だな。

山崎努主演で映画にもなっている。

悪い事をしちゃいけません。

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