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ゲーム好きもそうじゃない人も楽しめるSF短編集『スタートボタンを押してください』【読書ログ#47】

私が子供のころ、男子であればだれもがテレビゲームに夢中で、学校が終われば、どこかしらに集まってゲームをしていた。ゲームを買ってもらえない無い家も多かったけど、親がうるさくないか、親の居ない家に集まってゲームをした。

もはやだれの家だったのかも思い出せないが、今でも、毎日集まっていた家の中の様子は覚えていて、そこは友人の間では『ファミコンスタジアム』と呼ばれていた。(本当は『ファミコンハウス』ではなかったか、など諸説ある)

なぜか玄関からは入らず、解放されていた居間の窓から入り込み、近所の名前の知らない年齢もまちまちな子供たちが、皆でファミコンを囲んでいた。私も弟と一緒によく遊びに行った。ファミコンスタジアムにはお父さんとお爺さんが毎日居て、お母さんとおばあさんは仕事で不在だった。

ファミコンスタジアムにはゲームを待っている間に読むための漫画も用意されていたのだけど、それは単行本ではなくて、読み終わった週刊少年ジャンプとかを、漫画毎にページをちぎり取り、それを、数週間分まとめたものを再製本したものだった。

これが非常によくできていて、バラバラになった雑誌を糸で閉じ、背表紙が付けられて、そこに題名と巻数が書かれていた。北斗の拳の前半やキン肉マンはこれでほとんど読んだ記憶がある。作っていたのはファミコンスタジアムのお父さんで、よく「北斗の拳の新作だー」と新しい本(?)を持ってきて、子供たちはそれを取り合うように読んでいた。

そんな少年時代を過ごしたものとしては、ゲームが題材と言われると『ゲームセンターあらし』とか『ファミコンランナー高橋名人物語』とか『熱血!ファミコン少年団』が真っ先に頭に浮かんでしまうが、この『スタートボタンを押してください』は、そういったゲームをテーマにしたものではなく、ゲーム的な世界観で話が進むSF短編集だ。

なので、まったくゲームをしない人には辛いかもしれないが、多少ゲームをする程度の方であれば十分に楽しめる。ちょっとゲーム用語が多いけど、最低限の説明はあるし、飛ばして読んでも問題ない。深く理解したければあとがきで詳しい説明もある安心設計。

著者陣は豪華。映画『オデッセイ』の原作となった『火星の人』のアンディ・ウィアーや、これまた映画『Edge Of Tomorrow』の原作になった『All You Need Is Kill』の桜坂洋などが有名どころ。加えて『折りたたみ北京』を編纂し『三体』を英語に翻訳したケンリュウの作品も収録されている。

ゲームが題材ということで、仮想現実やゲーム的に改変された世界がテーマになっているものが多く並ぶ。みんなディックが大好きね。そんな中、夫が不在の間、赤ちゃんを寝かしつけ、夫のゲームをこっそりと楽しむ妻の話が夫婦の対比がゲーマーと非ゲーマーの対比にもなっていて愉快で面白かった。

桜坂洋の短編は面白いけどゲームっぽいかといわれるとちょっと違う気がする。SFなのかといわれてもちょっと違う気がする。面白いけど。

アンディー・ウィアーのショートショートはニューラルネットワークが話題になった頃に誰もが妄想したことを、テンポ感のあるユーモラスな話ににまとめていて上手だなぁと感心してしまう。

残念な点は2つ。ひとつは、原著では26編の作品が収録されていたが、邦訳では12編と半分以下になっている。これは残念だよ。

次に残念なのが表紙で、なぜ女子高生にパンチラさせているのか。

とはいえ、とても優れた作品が多いので、SFファンでなくても、ゲームをしない方でも、是非手にとってみてほしい。

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