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毎日読書#269 『ジョナサン・アイブ』(リーアンダー・ケイニ―)

初代iMacが登場したときのことはよく覚えている。

当時の私は、ソフトウエアエンジニアになったばかりの頃で、会社ではサンマイクロのワークステーションやWindowsを使って、企業の社内システムを作っていた。

自宅のパソコンはIBMのもので、確か香取慎吾がCMをしていた。

自宅は西大井の築40年の建物で、一階が印刷所、二階と三階が住居スペースとなっていたが、その殆どが事務所が埋まっているような建物だった。

建物のオーナーはドイツ文学かなにかの書籍を書いている老人で、珍しい「若い住人」にドイツっぽいカッチカチのパンを持ってきてくれた。

部屋は14畳ワンルームと広い部屋だったけど、家賃が6万円と激安で、キッチンと風呂っぽいものもついていた。そこに本棚を6つ置いて、あとはパソコンを置いたちゃぶ台と布団で生活していた。

そんな部屋に引っ越して生活を始めた頃に、突然iMacが現れた。

なにせ、「パソコン」と「デザイン」が一緒に話題にされる事なんて無かった時代の出来事。

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こんなものにかじりついていた時に、突然宇宙からやってきたような一体型のパソコンがやってきた。

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あんまりビックリして、Macなんて使った事がなかったのに、貯金をはたいて第二弾として登場した5色からタンジェリンを選んで購入した。

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物凄く殺風景な部屋に、突然未来からやってきたような半透明のコンピューターがやってきて、ちゃぶ台の上に載っている。

ワクワクしたなぁ。

似たような人も多いと思うけど、それ以来、ずっとApple製品を使い続けている。そのあとは「G4 Cube」も二代目「iMac」も「Macbook」も「Macbook Pro」も「Mac mini」も「Mac Pro」も買ったし、当然「iPhone」も「iPod」も「iPad」も買い、今も「iPnoe SE」や「iPad mini」や「Apple Watch」を愛用している。信者だね。

初代iMacは、Appleの復活劇の始まりとなる製品で、その物語はスティーブ・ジョブズの物語としておなじみだろう。

そして、その伝説は、洗練されたデザインと、そのデザインを生み出した哲学と一緒に語られる事が多い。

本書は、そのデザインの伝説を裏で支え、ジョブズと一緒にAppleの立て直しに貢献した一人であるジョナサン・アイブの物語だ。

この顔、見覚えありますよね。

一時期、ジョブズが新製品を発表すると、途中ジョナサン・アイブがデザインを説明するビデオが紹介される。というのが定番の流れだったので、知っている方も多いと思う。

そして、なぜか必ず広島弁の吹き替え版を作られていた事でも有名。

あんまり広島弁がおなじみになっちゃって、本書の紹介ビデオも広島弁になっている。

さて、本書。

最初はわかりやすくジョナサン・アイブの神童っぷりの紹介から入り、アップルに入社するまでのストーリーが書かれる。アップル製品の裏話を読みたいひとは、3章までは飛ばして良いだろう。

続いて、4章でアップルに入社する。大活躍をしながらも、少し不遇の時代を過ごすのだが、ジョブズが復活してからは、皆さんご存じの大活躍だ。

iMacから始まるすべてのプロダクトで大ヒットを連発、秘密のベールにつつまれたデザインスタジオの内部が語られる。ここまではとても有名な話が多いので、よく知っている方も多いだろう。そういうかたは、8章まで飛ばしても差し支えない。

第9章に入ってからはとても面白い。ただ、これもまた、アップルの製品を追いかけた人にはおなじみの話だろう。

しかし、2015年に出版された本書を紹介するにあたって、どこかで聞いた話をまとめた本だ、というつもりは全くなくて、逆に、本書があったからこそ、世に知られる事になったエピソードも有るはずだ。

よくまとまっているし、アップルが作り上げた製品の製造プロセスの話にはワクワクする。そこらへんのWEBの記事をより集めただけではない、正しく取材され、整理されている。読んでいてとても楽しかった。

ご存じの通り、現在のジョナサン・アイブは、マークニューソン(Apple Watch の開発にかかわったとされる、これまた伝説のデザイナー)と共にアップルを離れている。

本書の最後では、アップルがデザインの主流をつくるようになったこともあり「ジョニーはエスタブリッシュメントになった」という意見が若い世代から出ていると紹介する。そして、

アップルは新たなデザイン言語を開発しなければならない。それはどのようなものになるだろう?

と締められる。その答えは「アップルには無理だ」なのか「自分には無理だ」なのか。答えはいずれ。

今回も積読解消なわけですが、さすがに5年も寝かせてはいかんな、なんて思いつつ、今だから冷静に読める部分もあり。

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