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毎日読書#260 『劇画ヒットラー』(水木しげる)

水木しげるによる「ヒットラー」の伝記。

本書は、先日ご紹介した藤子不二雄Ⓐの『劇画 毛沢東伝』と同じ、昭和40年代に漫画サンデーで連載されていた革命家シリーズの作品だ。

浮浪者のような生活をしていた絵描きが、ひょんなことから泡沫政党の党員となり、アッと驚く方法で政権を握り、独裁者となった。選民思想(ナチズム)によるおぞましい迫害を行い、あげくは第二次世界大戦を引き起こすも、最後は大国ロシアに挑み、勝てないとわかり身勝手に自決する。

水木しげるは、そんなヒットラーという人物を淡々と描く。

読んでいるあいだ、何とも言えない不思議な違和感を感じるのだけど、読み終わって、あとがきの「ヒットラーさん」を読むと、その違和感の理由が見えてきた。水木しげるは、本書でヒットラーを絶対悪として描いていない。かといって、英雄にも描いていない。

淡々と、資料から見えるヒットラーという人物を素直に書いている。さらに、ヒットラーという人物を生み出した第一次世界大戦の敗戦で疲弊したドイツにも、貧困にあえぐドイツ国民にも、ナチ党員にも、SAにもSSにも、特別な感情を持ち出していない。

ただただ、知りえる事実を淡々と、濃密に描いている。あまりにも淡々と描くので、なんだか喜劇でも見ているような気分にもなる。

ヒットラーという人物を、ナチスドイツを、こんなにも誇張なく紹介したものなんて、どの世界にも無いのではないかしら。

水木しげるといえば『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』など、妖怪漫画で御馴染みだと思うのだけど、じつは自身の太平洋戦争の経験を描いたものや、戦記物がすごくよくできいて面白い。本書も、独特ながらも中身の詰まった傑作。

最初ページをひらいたときの「おもな登場人物」のページをみて、読めるかなと心配になるが。

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読み始めたら最後。登場人物は生々しく、街並みなどは狂気の書き込みっぷりで、まさに水木しげるワールド。読んでいると、どんどん引き込まれてしまう。

水木しげるファンの方。戦記物が好きな方。歴史が好きな方。是非読んでみてください。おススメです。

様々なところから出版されているし、安くて手に取りやすい文庫本もあるけど、これは大きい判で読んだ方がよさそうよ。

しらべてみたら、本作のWikipediaがあって作品の背景がお面白いので、こちらも目を通してみて。

紹介した以外にも沢山出版されている。

集めたくなっちゃうね。

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