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あなたが不幸なのはバカだから『みんなちがって、みんなダメ』

ほぼ毎日読書し、ほぼ毎日読書ログを書いています。

『みんなちがって、みんなダメ』(中田考)

イスラーム法学者である中田考による、現代日本の「生きづらさ」の原因はなにか? それをイスラームという、圧倒的に無宗教で生きてきた多くの日本人とは価値観の違う視点から解き明かす。

もう、著者と私では、圧倒的に立っている場所が違う、イスラームの事を何も知らないのだなという事がよくわかって、そういった意味でもとても勉強になる読書でした。

阿刀田高の『コーランを知っていますか』を読んだとき、日本の土着宗教(神道と仏教とすこしキリスト教)やキリスト教、イスラム教とのコントラストを感じたわけだけど、それは経典の違いであって、その経典に依って生きている人々の考え方までは理解できていなかったのだな。

のっけから「知るべき事を知らない物はバカ」であると始まる。

では、知るべきはなにか?

それは「自分が何をしたいのか」と「自分には何ができるのか」。

そしてもうひとつ「自分は何をなすべきか」の3つだ。

この3つを理解していれば賢い人。賢いとは? それは「分を知る」ことで、逆に分をわきまえないのが「バカ」となる。

しかし、3つめの「自分は何をすべきか」について、それが何か? という問いには、一神教への信仰がもたらすものなので、現代の多くの日本人には答えのない問であると。

信仰とは「外部からやってきて、内面化された権威」と定義されていた。かつての日本には父権があり、独裁者がおり、天皇崇拝があったので、それなりに与えられた「何をするべきか」はあったのかもしれない。

本書ではバカを連発しているが、バカとは、自己認識のずれに気が付いていない状態を指してもいる。

自分自身が思っている自己像と、実際の自分自身のギャップ、それは自己認識の誤りだ。その自己認識の誤りに無自覚であったり、目をつむったまま、「自分が何をしたいのか」やら「自分には何ができるのか」を考えてしまうと、肥大化した承認欲求は満たされることが無くなり、結果として「生きづらさ」が顔を出す。

人は肥大した自我を維持しようとすればするほど不幸になっていく。

つまり「あなたが不幸なのは、あなたばバカだから」ということになる。

著者の狙いは、このことを読者に自覚させ、本当の「自分が何をしたいのか」と、本当の「自分には何ができるか」を、いかに見つけるか、そのきっかけを作る事の様だ。

西洋的なアプローチでは「理想の自分」と「現在の自分」のギャップを分析させ、そのギャップを埋める戦略を練って行動計画に落とそうぜ、という流れになるが、イスラーム的な世界ではまったくそうならないのが面白い。

本書、自分とは全く違う、イスラーム的な幸福論という価値観を通して、私たちが生きるこの日本の現在が論じられており、かえってそのことから、明確に自分の住む世界の輪郭が見えてくる。そんな不思議な体験をした。


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