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大阪大学ら、ナノビームX線回折法を用いてGaN結晶中の歪み成分を非破壊的に定量解析する方法を開発

発表日:2024年6月13日

概要

大阪大学と高輝度光科学研究センターJASRIの研究グループは、放射光ナノビームX線回折法を用いて、窒化物半導体結晶中に存在する一本の転位によって生ずる3次元的な歪み場を検出することに成功しました。

結晶中に存在する転位やその周辺の歪み場は、同結晶からなる電子・光デバイスの電気特性や信頼性に様々な影響を与えます。しかしそうした転位による歪み場を非破壊分析で定量的に計測することは、これまで非常に困難でした。

今回ナノビームX線回折による高い空間分解能と歪み分解能によって結晶中の転位の性質が明らかになり、より高性能な半導体材料・デバイスの開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、米国学術誌「Journal of Applied Physics」のEditor’s Pickに選出され、2024年6月11日(火)に公開されました。

図.ナノビームX線回折実験の概念模式図と検出された窒化ガリウム結晶中の転位周辺の3次元歪み場成分

研究背景

窒化ガリウム(GaN)は、大きな絶縁破壊電界や飽和電子速度を持ち、大電力・高速動作に適しているため、次世代パワーデバイスとして電気自動車や次世代通信技術(6G)への応用が期待されています。

しかし、GaN結晶には転位と呼ばれる欠陥が存在し、デバイスの電気特性に大きな影響を与えることが問題となっています。特に、転位はデバイスの漏れ電流を誘発する可能性が指摘されていますが、その性質には未解明な点が多く残されています。

従来の分析手法では、3次元に分布した歪み場を検出・分析することが困難でした。そのため、転位の存在状態を的確に把握し、制御することが半導体結晶やそれを用いたデバイス開発において重要な課題となっています。

研究の内容

大阪大学の研究グループは、Na-flux法で作製した高品質GaN結晶を用いて単独の転位に照準を当てた評価・解析を行いました。この研究では、大型放射光施設SPring-8のBL13XUにおけるナノメートルサイズのX線ビームを用いた回折(ナノビームX線回折)法を駆使し、ナノ~マイクロメートルオーダーの高い空間分解能と1万分の1以下の高い歪み分解能でGaN結晶中のいくつかの転位を評価しました。その結果、転位周辺の3次元的な歪み場の全ての成分を検出することに成功しました。

本手法では、特に電気特性の劣化に大きく寄与すると言われるらせん成分を持つ転位の歪み場分布を精密かつ正確に捉えることができます。従来手法では特定が困難だった転位の種類を歪み成分の分布に基づいて非破壊で判別することが可能となり、電気特性に異なる影響を与える転位を的確に把握し、結晶やデバイス開発に役立てることが可能です。

また、この手法はGaN結晶だけでなく、パワーデバイス半導体としての研究開発が加速している炭化ケイ素(SiC)や酸化ガリウム結晶中の転位の分析にも応用でき、次世代半導体結晶・デバイスの開発と性能向上に貢献することが期待されます。

本研究の意義

本研究の成果は、半導体結晶における単独の転位を特徴づける歪み場の分布と性質を非破壊で正確に把握する分析技術を確立しました。今回開発された手法は、実際のデバイス構造にも適用可能であり、転位の制御を起点としたデバイス性能の向上や先端半導体デバイスの研究開発に広く役立てられると期待されています。

また、従来は理論ベースや破壊分析で評価されてきた転位の歪み場分布を実験ベースで定量的に明らかにしたことから、学術的にも意義深い成果です。

参考文献


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