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「節分」 ラジオ番組『仙波書房の東京歳時記』連動企画記事 1月分

季節ごとの東京の行事や、文化を文学作品内の描写から紹介するラジオコーナー番組『仙波書房の東京歳時記』は毎月第3土曜日の深夜に放送。
ラジオ連動企画記事として、noteでは番組の概要を掲載。
今回は、2月3日の「節分」について紹介する。

■文学作品パート
『四季の田園』 第五章 冬の田園 節分 天野藤男 大正5年

節分は古来立春、立夏、立秋、立冬の前日を云つたものであつたが、いつか立春の前日のみを称することとなつた。
なぜ立春、以下立冬の前日を節日と称したかといふに、昔の人は、気候の転移にはことに衛生を重んじて摂療自ら力めたのである。
即ち気候の変り目、春夏秋冬の前日に病魔の予防式を行ひ、縁喜を祝ひ、将来活動の保證を成したのである。

さて、何故に節分に豆を撒くかといふ詮議をしてみたい。
『壒嚢鈔』(あいのうしょう)に、
節分の夜大豆を打事は、宇多天皇より始れり。
鞍馬の奥僧正谷(そうじょうがだに)、美僧路池(みぞらがいけ)の端方丈の穴に住ける藍婆惣主と云二頭の鬼神、共に出て都へ乱れ這入んしけるを、毘沙門の御示現に依て彼寺の別当奏し申子細あり、~三斛(こく)三斗の大豆を熬(いり)て鬼の目を打ば、十六の眼を打盲(うちめしい)て抱へて帰るべし。

また門戸に柊に鰯の頭を挿す習を
聞鼻といふ鬼、人を喰はんとするをば、䱝(はい)を炙串と名付て、家家の門に指べし。
然らば鬼は人を収 (おさ)めべからずと云御示現也と云々。(䱝はいわし)

少年の頃は節分と云はず豆撒豆撒といふて、いかに憧れたものか知らぬ。
前の夜豆を熬つて既に試食をする。
当日は朝早く件の柊、鰯を小さな竹籠に挿んで門戸に飾る。
夜になると、三寳へ豆を盛り、
鬼は外福は内–
と呼びながら室中撒いてあるく、これを年男いふて大抵主人がつとめる。
自分等は畳を這ひながら豆を拾ひポリポリ噛みながら拾ひあるく役目である。
なお当夜児童は順々各戸を訪問して拾ひあるくのである。
同じ豆であるが熬加減で少し宛味がちがふ。
家に依ると、金を撒く慣もある。
一種の救済事業である。
豆は自分の年丈拾ふて食べるいふが、どうしてその幾百層倍も食べる。


こちらは天野藤男による『四季の田園』で、節分について記されている。
二十四節気(にじゅうしせっき)のひとつである立春は、春の兆しが見え始める頃ということで、2月4日頃になる。
その前の日である2月3日頃が節分で、節分は年に一度の行事というイメージがあるが、この本の中では各季節の始まりである立春、立夏、立秋、立冬の前日を節分と呼び、年に4回も節分の日があったことが分かる。
それがいつの間にか立春の前日のみを節分と称することになったと…
また、季節ごとの節分を設けた理由として、季節の変わり目は気候の変化や寒暖差などから体調を崩しやすいため、季節ごとの節分という行事を通し、体調管理に努め、病気予防の考え方があったということも作品から伝わってくる。

次に節分の豆まきについて、『壒嚢鈔』(あいのうしょう)という室町時代の百科事典からの引用を交えて説明があった。
節分の夜に豆まきをするのは、宇多天皇の在位887年~897年頃から始まったと…
京都の鞍馬寺近くの僧正谷と、京都国際会議場西の深泥池近くの穴に住む、藍婆と惣主の2匹の鬼が都に入ろうとするものだから、豆を大量に煎って、その豆を鬼に投げつけ、鬼の目をいくつもつぶした結果、鬼は逃げて行った…

また、地域によってだが、柊の枝に鰯の頭を焼いたものを付け、地面に刺す「焼嗅」(やいかがし)、柊鰯が見られる。
この本の中でも、焼嗅・柊鰯の事についても書かれている。
聞鼻という鬼は、鰯を焼いたものを家の門に差すと鬼は人を襲ったり、食べには来ないと…

この本の中では魚編に卑しいと書く、ハイという魚が鰯のことだと補足がある。
本によっては鯉と記され、別の作品である紀貫之による『土佐日記』の中にも同じような風習が描かれ、そこに登場する魚は「なよし」と記され…
この「なよし」という魚はボラのことだが、柊とボラ、鯉、鰯と、魚の組み合わせもいつの時代からか柊と鰯が定着化したことが分かる。

それから、豆まきは自分の家だけではなく、他人の家に行って豆まき後の豆の片づけと、家ごとの豆の味の違いを楽しんだり、家によってはお金を撒く家もあり…子どもにとっては楽しみな一日であったことが作品から伝わってくる。
豆の煎り具合や、豆による味の差は著者同様、実際に楽しむ機会があれば…と思う。

さて、冒頭の説明で立春が2月4日頃、節分が2月3日頃と紹介したが、これは年によって日がズレることがある。
地球の公転周期と暦との時差調整を行うのがうるう年で、同様の理由から節分の日も年によって変わる時がある。
直近では2021年の節分は2月2日で、1984年には2月4日が節分に。
今年の節分は2月3日だが、来年2025年の節分は2月2日になる。
節分の行事を通し、皆さまが健康的に過ごせますように…

このように明治から昭和初期の文学作品を通した当時の東京の季節ごとの行事や文化をやさしく紹介するラジオコーナー番組「仙波書房の東京歳時記」。
作品中に描かれている東京の行事、文化など、番組を通して、東京の現在と過去を感じてもらえたら、嬉しく思う。

■ラジオコーナー番組との連動企画
1月20日(土)の放送では、今回のnote記事にある「節分」について紹介。
「Like water…」内
『仙波書房の東京歳時記』
2024年1月20日(土) 23:30~23:45
池袋FMにて放送!

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