最後のデート
先日、一年以上付き合っていた彼女と別れることになった。
なぜかというと、私が他の女性と接触している事がバレたから。
つまり完全に私のせいである。
シャワーを浴びている隙に、スマホを見られていた。
私は初めて彼女にキレた。完全に逆ギレである。
「なんで勝手にケータイ見てるんだよ!」
「だって、怪しかったから。。」
ウンザリするほどよくある話だ。
ともかく彼女は、浮気をまったく許容できない質であった。
私は彼女に対し「未遂だ。」と言い張ったが、実際は他の女性の部屋に行き、キスまでしていた。完全にクロである。
彼女は泣いた。私も泣いた。もう無茶苦茶の様相である。
お互いに離れたくはなかった。
が、私は「自分に嘘をついて生きていくことが出来ない」と彼女に伝えた。
「別れよう。」と彼女は言った。私はそれを受け入れた。
それから最後にと、二人でドライブに出かけた。
私は、彼女と付き合い立ての頃によく行った海岸へと車を走らせた。
真夜中にである。
着いてみると風が強くて、波の音がひどくうるさかった。
冷えてきたので車の中で波の音を聴いた。
お互いに何も喋らなかった。ただ黙ったまま、二人して泣いていた。
そして、これまたよく行っていた海辺の公園を散歩した。
月は雲に隠されていた。
暗がりの中、抱き合ってまた泣いた。
泣き止んでも視界がボンヤリとするほどに泣いた。
よくよく考えてみると、一年以上付き合った女性は彼女が初めてだった。
大抵の場合、私から距離を置くことが多かった。
しかし彼女は違った。
明日からその彼女となんの関わりもなくなると考えると、眩暈がするような感じだったし、実際にした。
今まで当たり前のように存在していたものが、いなくなる喪失感。
生きていると様々なかたちで、そのような経験をすることになる。
いつまで経っても、これにはツライものがある。もちろん私が選んだことだが。
自分にとって、彼女はとても大きな存在であったのだということを改めて思い知った。
彼女との出会いはナンパだった。
(私はそれしか、女性と知り合う方法を知らない。)
彼女は年下だったが、とても素直かつ真面目で、母性溢れる女だった。
正直、付き合いだした頃は、こんなに長く続くとは思わなかった。
彼女の傍らは、あまりにも居心地が良すぎた。沈没していた。
と同時に私は無意識下で、そこから逃れたいと思っていたのかもしれない。
そして、そのことに彼女も気付いていたのだと思う。
いや気づいていた。
彼女は私を、無意識的にその母性で縛りつけようとする。
これは女性の本能のようなものだろうか。
軟らかな綿で絞殺されるような息苦しさが、薄っすらと迫っていたように感じていたことは確かである。
しかし、確実に言えるのは私は彼女を愛していたということ。
また、一度好きになった女性は、別れても基本的にずっと好きなままだ。
それは、ヨリを戻したいとかそういった類の感情ではなく、ただ好きなのである。
私の浮気は離別のキッカケに過ぎない。
お互いが交わらない道の上を歩いていたことは、以前から暗黙の了解だった。
それでも一緒に居たかったのだと思う。出来るだけ長く。
しかしこれでよかったのだ。
私は私の道を、彼女は彼女の道を行く。
これから先の、彼女の幸せをささやかながら願うことにする。
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