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「子ども欲しい」の前に読むnote ~妊娠出産編~

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この記事は国立成育医療研究センターの
母性内科医師三戸麻子先生と産婦人科医師前田裕斗先生
に情報提供および監修していただきました。
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みなさんは将来子どもが欲しいですか?

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キャリアプランやライフプランを考えるとき、子どもを希望するかどうか、またそのタイミングはいつが適切なのか、気になる人も多いのではないでしょうか。

子どもを授かるのに、妊娠出産が絶対必要な訳ではありません。
特別養子縁組や里親といった制度もあります。

ただ、望めば授かるという訳ではなく、妊娠には生物学的なタイムリミットがあります。

そこで今回は、あまり知られていないリスクについて主に書いていきます。
楽しく健康に妊娠出産育児を行うために、性別問わず知っておいて欲しいことです。

この記事は読み終えるのに10~15分かかります。
少し長いですが、自分のペースで最後まで読んでもらえると嬉しいです。

1. 男女ともに妊娠のタイムリミットがある?

「子どもを授かれる期間」がいつまでかを知るためには、以下の3点が重要です。

①卵子の減少・老化
②精子の老化
③妊孕(にんよう)力

①卵子の減少・老化
はじめに、卵子についてです。卵子は女性にのみ存在し、生まれた時をピークに減り続けます

この卵子がないと子どもは授かることができないので、卵子の数というのはとても大事になってきます。

ちなみに、卵子は生理の時だけ減るのではなく、毎日減り続けています。
卵子の減少は以下のグラフのようになっており、1日に換算すると30~40個/日減っていることになります。

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(引用元:日本産科婦人科学会編著「女と男のディクショナリーHUMAN+」)

卵子は加齢とともに数が減るだけでなく、老化もしていきます。
もしあなたの年齢が20歳なら、卵子も20歳ということになります。

年齢と一緒で、1度老化した卵子を若返らせることはできません
卵子が老化すると、妊娠率の低下や流産のリスクが上がったり、子どもの先天異常の確率が高くなったりします。

②精子の老化
つぎに、精子についてです。精子は男性の体内で生成されるものです。
精子は卵子とは違い、毎日精巣で新しく作られています。

毎日作られていると聞くと老化しないと勘違いしそうになりますが、精子も加齢とともに機能が低下していきます。

精子の機能が低下していくと、卵子の老化同様、妊娠率が低下したり流産のリスクが上がったり、加齢とともに生まれてくる子どもの先天異常の確率が高くなる傾向が報告されています。

③妊孕(にんよう)力
妊孕力とは、精子や卵子の妊娠する能力を指す言葉です。

これは年齢別に女性の妊孕力の推移を表したグラフです。

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(コペンハーゲン大学病院Rigshospitaletのsøren ziebe先生の資料より引用)

こちらは男性の年齢別累積妊娠率のグラフです。

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(引用元:https://www.1morebaby.jp/column/articles/807/

このように、年齢と卵子/精子の状態、そして自分とパートナーの年齢は子どもを授かれるかどうかに深く関わります。

厚労省の調査によると、2016年時点で第一子出生時の母の年齢は平均で30.7歳になっています。また、2015年の調査によると不妊の検査や治療を受けたことがある、または現在受けている夫婦は5.5組に1組にのぼります。

一概に早くに産むことを推奨している訳ではなく、いつか授かりたいと思ったときのために、将来起こりうることを知っておいて欲しいです。

最後に、希望する子どもの数と子作りを開始すべき女性のmax年齢という表があるので、よければ参考としてご覧ください。

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ここまで読んで『自分の精子/卵子が正常に機能するのか知りたい』『早くに妊娠しないと手遅れになっちゃうの?』と思った方へ。

長くなってしまうので詳細は省きますが、精子と卵子に関連したQ&Aをまとめてみました。

📖自分の卵子がどのくらい残っているのかを知りたい
→AMH検査(抗ミュラー管ホルモン検査)を受ける。
検査方法は血液検査で、婦人科で受けることができます(保険適用ではありません)。
この検査では卵子の質や具体的な個数までは把握できませんが、目安を知ることができます。
📖自分の精子の質を知りたい
→精液検査を受ける。
泌尿器科または不妊外来で受けることができます(場合によっては保険適用されるケースもあります)。
この検査では自分の精液の量,精子の量,精子の運動量,精子の正常形態率などを調べることができます。

📖将来妊娠を希望する男女が受けておくべき検査は?
プレコンセプション・チェックプランをおすすめします(保険適用外です)。
プレコンセプションで行う検査は通常の健康診断とは違い、妊娠を想定した項目を網羅的に検査できる上、医師や管理栄養士とのカウンセリングもついてきます。
この検査を通して自分の健康状態を知り改善していくことで、卵子や精子の質を向上することにもつながります。
カップルプランもあるので、パートナーと受診することも可能ですよ。
📖卵子の数や質を保つ方法はあるのか,精子の質を保つ方法はあるのか
→先ほどのプレコンセプションケアの他に、卵子凍結という方法があります。
若いうちに質のいい卵子を凍結保存し、将来妊娠を希望する際にその卵子を解凍し体外受精にて妊娠にトライする方法です。
ちなみに、ピルを服用しても卵子の数の減少を止めたり老化を防ぐことはできません(卵子は排卵しなくても自然に消えていきます)。

2. 妊娠→出産に100%はない

妊娠すれば誰しもがお腹が大きくなり健康に子どもを出産できるとイメージしがちですが、そんなことはありません。
そして、妊娠中に起こるアクシデントに関しては、男性女性どちらもが原因になりえます。

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このセクションでは妊娠から出産までの間に起こりうる様々なケースを紹介します。
男性女性問わず、いずれも知っておいて欲しい知識です。

①正常でない妊娠
②流産
③胎児の健康状態
④妊娠合併症
⑤合併症妊娠
⑥出産時に亡くなるリスク


①正常でない妊娠
おそらく自分で妊娠を把握する最初のステップは、薬局などで販売されている妊娠検査薬になるかと思います。

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(↑こんなやつです。)

この妊娠検査薬は、妊娠したかどうかを判別するもので、正常に妊娠しているかを判断できるものではありません。

正常でない妊娠の例を挙げると、「異所性妊娠」というものがあります。
これは受精卵が子宮内膜以外に着床してしまった妊娠のことで、最も多いのは卵管という卵子の通り道で着床してしまうケースです。

異所性妊娠となってしまった場合、妊娠を継続することはほとんどの場合不可能です。もしそのままにしてしまうと、卵管破裂を起こし大量出血、最悪の場合母体の生死に関わる、ということもあります。

自分にできることは、体調をしっかり管理し、妊娠に早期に気付き、病院を受診することです。

②流産
流産とは、妊娠22週未満で胎内にいるあかちゃんが何らかの原因で亡くなってしまい、妊娠が継続できなくなることを指します。
流産の中にもいくつか種類があるので、詳しく知りたい方はこちらを読んでみてください。

妊娠初期の流産が起こる原因として最も多いのが胎児の染色体等の異常です。これは母体や父親に原因がある訳ではないので、誰も悪くないどうしようもないものになります。

参考として、年齢別の自然流産率の表です。

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(引用元:https://www.1morebaby.jp/column/articles/914/

おそらく、想像よりも多く、身近なものだと思います。

流産の予防としてできることは、いまのところありません。
(ネットを調べると、重いものをもたない、激しい運動をしない、といった情報が出てくるかと思いますが、明らかな科学的根拠のあるものはいまのところありません。)

③胎児の健康状態
授かった子どもの健康状態も様々です。
現在はエコーやNIPT(新型出生前診断)などを通して、先天性異常や奇形など胎児の状態を知ることができます。

ここではダウン症候群(21トリソミー)を例に挙げて話します。

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上のグラフから、ダウン症候群(21トリソミー)は母体年齢と比例して増えていることがわかります。
胎児の健康状態によっては、生まれる前になくなってしまうケースもあります。

④妊娠合併症
妊娠合併症とは、妊娠中に発生する健康上の問題のことを指します。
参考として一部紹介すると、

・妊娠高血圧症候群
・妊娠糖尿病

といったものです。(まだまだ他にもいっぱいあります。)

妊娠合併症は妊娠期間中にのみ発症し、産後には正常に戻る一時的なものです。しかし、今後一切関係のない症状かというとそうではありません。

今後長期的にみて、高血圧になりやすかったり、糖尿病になりやすかったりする、その前触れでもあるのです。
妊娠をきっかけに分かった将来起こりうるリスクとして、今後の生活を気をつけると良いでしょう。

⑤合併症妊娠
(さっきと語順が逆なだけでは...?と思った方、そうなんです。でもこれで間違ってませんよ。笑)

合併症妊娠とは、持病や過去に病気になったことがある人が妊娠することを指します。

持病のある方は、現在服用している薬が妊娠中継続できるのか、持病の具合からして妊娠するのに適切なタイミングはいつか、など主治医と相談してみてください。

過去に大なり小なり病気になったことがある人は、妊娠を希望している場合主治医に相談しておくことがベターです。

本当に一部の例ですが、腎炎、甲状腺疾患、高血圧など(それ以外にもどんな病気でも)妊娠したことにより母体の健康状態が悪化するケースがあります。

『若いから高血圧とかないでしょ!』と思わずに、薬局に行ったら血圧を測っておくなど、自分の健康状態を正しく把握し健康な妊娠に備えておくことが大切です。

⑥出産時に亡くなるリスク
子どもができ、出産するというのは本当に命がけの行為です。
そのため、出産時に子ども、または母、もしくは両方が亡くなってしまうケースもあります。

妊娠時の健康状態からリスクがわかっているものから、分娩で偶発的に起こるものもあります。

参考までに、母体死亡に関するグラフです。スクリーンショット 2020-05-19 22.12.04

3. 妊娠出産にかかる費用

基本的に妊娠出産は保険適用外です(妊娠糖尿病などの病気になるか、帝王切開など手術が入ると保険適用になります)。
※ここで提示するのはあくまで例であり、病院や母子の状態によって金額は変わってきます。

①妊娠にかかるお金
②出産時にかかるお金
③免除・返ってくるお金について

①妊娠にかかるお金
妊娠すると、定期的に検診に通う必要があります。
病院や、母子の状態によっても金額は様々ですが、一般的にはこのようになります。

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妊娠が判明し、健診で胎児の心拍が確認できると自治体から妊婦健診の補助券がもらえます。その補助券がもらえるまでは全額自己負担となるため、最初の健診は少し高くなります。

高額かつ全額自己負担のため行くことを戸惑う方もいらっしゃるかと思いますが、正常な妊娠かどうかを確認するためにも、初期から病院へ行きましょう。

②出産時にかかるお金
出産時にはこのような費用がかかってきます。

・分娩料
・入院料
・新生児管理保育料
・検査、薬剤料
・処置、手当料 など

これらを合わせるとおよそ50万円程度になります。
(平成28年の調査によると平均額が最も高いのは東京で、最も安いのが鳥取でした。)

ここから入院が個室かどうか、分娩時間によっては夜間手当、帝王切開かどうか、無痛分娩を希望するかで金額は大きく変わってきます。
例えば、無痛分娩を希望する場合さらに10~20万円程度上乗せされます。

③免除・返ってくるお金について
・出産育児一時金
健康保険に加入しているor扶養に入っている方は受け取ることができます。
一児につき42万円を受け取ることができます(双子の場合は二児なので84万円)。
先ほど出産時にかかる費用は約50万と書きましたが、あとから42万円返ってくるので差し引いた分が自己負担額となります。

・出産手当金
出産する本人が会社に勤めており、勤務先の健康保険に加入している場合、出産のために休んだ期間に応じて受け取ることができます(契約社員やパートでも条件が当てはまれば対象になります)。

出産前の42日間、出産後の56日間が対象で、休んだ日数×過去1年間の給与の2/3が公的機関より支給されます。
また、出産手当金の支給期間は、健康保険料・年金保険料・雇用保険料なども免除されます。

申請方法や退職者の場合などもっと詳しく知りたい方は、こちらのページがわかりやすくておすすめです。

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4. 未来のために今できること

☑️感染症のワクチンを打とう!
(麻疹・風疹・おたふくかぜ・水痘(みずぼうそう)・B型肝炎など)
→妊娠してしまうと打てないが、妊娠中に感染すると流産や胎盤の早期剥離、胎児の異常(先天性風疹症候群など)などがおこってしまうため。
幼少期に一度打った人でも、血液検査をして抗体ができていなければ再度打つ必要があります。また、一度に全部を打つことはできないため、ある程度の期間が必要になります。
☑️がんのチェックをしよう!
→特に女性は子宮頸がんや乳がんのチェックを忘れずに。
子宮頸がんは2年に1回の検診、乳がんは日々のセルフチェックを習慣づけましょう。
☑️歯の治療をしよう!
→歯の病気が原因で妊娠合併症のリスクがあがるという報告もあります。
☑️栄養バランスの良い食事、適度な運動や睡眠をとろう!
→体の基礎づくりは何より大事です。
なかでも、赤ちゃんの成長に欠かせない「葉酸」という栄養素は特に意識して積極的にとりましょう。
☑️自分の身体について詳しく知っておこう!
→合併症妊娠の話にもありましたが、持病や過去の病気により妊娠中に異常が起こる場合があります。
現在健康体だったとしても、定期的な健康診断や使用した薬の記録を取るなど、体調管理が大切です。ちなみに、自分が生まれた時の母子手帳も大事な情報なので、無くさず持っていてくださいね。
☑️禁煙し、受動喫煙を避けよう!
→女性の喫煙・受動喫煙は卵子の老化を加速させ、不妊の原因になることが報告されています。また、妊娠期間中の喫煙・受動喫煙も流産や早産の確率を高めたり、胎児の発達に影響が出ることわかっています。母体のみが禁煙するのではなく、周りの人も一緒に禁煙していく必要があります。
☑️このnoteをしっかり読もう!
→まずはなにより「何が起こりうるか」を知っておくこと。その中で、できることから始められたら素敵だと思います。

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ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
(すごい情報量で、とっても長かったですよね。笑)

ここではリスクを主に取り上げたため、妊娠出産が怖いものというイメージをもたれた方もいるかもしれません。
ですが、知っておくことで未然に防げることもありますし、心の準備を整えることもできます。

子どもをおうちに迎えてからのお話もnoteにまとめていますので、よければこちらも読んでみてください!

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