――親の命名権は「親に権利あり」「子供の代理」の2つの考え方がある――
自己命名権に関連する論文を読んでいきます。今回は中編――
長友昭. "氏名権, 親の命名権をめぐる比較法的考察―日本の実務と中国の指導案例 89 号 「北雁雲依」 事件, 中国民法典の人格権規定から―." 拓殖大学論集. 政治・経済・法律研究 23.2 (2021): 1-21.
中編では「命名権」についての記載を見ていきますが、「自己命名権」という考え方が決しておかしなものではないことも記されています。
「名を決める権限が誰に属するかは定められていない」というのは重要な記載です。日本の法律ではそんなことも明記されていないのです。
親が子供に名前をつける「命名権」については3説あるとされています。
(A)命名権親権固有説
(B)命名権子固有説
(B-①)事務管理的代行説
(B-②)親権者代行説
これを順に見て行きましょう。
(A)の説は、「命名権は親権者にある」と解釈するものです。生まれた子ども自身が自己命名できないのだから、親権者に命名権があると考えているわけですね。
(B-①)の説は、「命名権は生まれた子供が持っている権利だが、事務作業を誰かがやらなければならないので、親がそれを代行している」と考えるものです。ここで「名がむしろ一般に終生的であり,身上的である」、つまり、名前とは一生付き合わなければならないのが一般的であるという事実にも触れられています。
(B-②)の説は、「命名権は生まれた子どもが持っている権利だが、親がそれを代行している。ただし、単なる事務管理的な代行(B-①)では義務ではないということになってしまう。親権(子の福祉を維持増進させる義務)として命名権を代行している」とするものです。
(B-①)は単なる事務作業を代行しているだけ、(B-②)は子供の保護育成を義務とする「親権」の一部として代行している、という点が異なります。
親権者が命名権を持つ、または親権者が命名権を代行するというどちらの考えについても、そうではない場合も見られる(たとえば祖父母が名付け親になるのはよくある)といった点も指摘されています。
少なくとも、「命名権が親にある」というA説は受け入れがたいと言えます。「命名権は子(本人)にあるが、出生時にそれを親が代行する」という
B説が妥当でしょう。それが事務手続きのみに留まるのか、それとも親権の一部なのかには議論の余地もあります。
しかし、成長した子供自身が命名を選ぶ権利については完全に無視されているといえます。
わたしたちは自己命名権というものが存在することを再確認し、日本での意識を高めていく必要があります。