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書籍の出版と退職、そして個人事業主になる。

2019年の8月。
「運用設計の教科書」を出版した。
その時、僕は控えめにいって怒り狂っていた。
業務で得た知識を書き記したので、何かあった時に社員を守るため。
ということで、著作権が会社になったのだ。
長い交渉をして、権利は会社だが著者には自分の名前を載せてもらうことを勝ち取った。
勝ち取った、と書くにはあまりに小さすぎる報酬だ。
この小さな報酬のために、僕は疲れ果てていた。

1年半、毎晩のように深夜のファミレスに通って書いた分身のような本である。
この書籍の権利は僕にとっては印税というお金の問題ではなく、尊厳やプライドの問題だった。
この時点ですでに、次の書籍である「運用改善の教科書」の構想があったが会社員のまま次の書籍を書くことは無理であると判断せざるを得なかった。
あまりに騒ぐと出版自体を止められる恐れもあったので、表面上は冷静を保ちつつ「運用設計の教科書」が無事に出版されるのを見届けた。
出版された翌日、僕は部長に退職届を提出した。

退職届を受け取った部長から引き止めがあった。
ある役員が話をしたいとのことだったので、一回居酒屋で腹を割って話そうということになった。

僕の心は、まだマグマのように煮えたぎっている。
このまま話を聞いてもまともな結果にならないことは簡単に想像できた。
こういった時は、状況を冷静に判断できる第三者に話を聞いてもらうのがよい。

同業じゃないほうがより冷静な意見がもらえると思って、幼稚園からの幼馴染でライブ配信プラットフォームのディレクターをしている萬晃太(通称、萬くん)と、戦略コンサルで働いていた中学の後輩の木村源基(通称、キム)に相談することにした。
この2人は僕の性格も熟知しているし、古くからの付き合いなので僕に気を使うということもない。
なのでこういった込み入ったことを相談するには最適な相手である。

相談の結果、二人から「どんな条件だったら会社に残る可能性があるのかをぶつけてみたら?」という意見をもらった。
会社に残るという選択肢がなかった僕には新たな目線だった。
自分はいったい何に怒っていて、なぜ辞めようと思っているのかを書き出してみることにした。
108を超える呪詛を吐き出してみると、本当に望んでいることはおおよそ3点に集約されることが分かった。

・自分の裁量で活動したい。
・時間を自由に使いたい。
・年収を上げたい。

書籍出版やセミナー・研修などの依頼を、会社を通さずに自分の裁量で扱いたいし、それらにかかる時間は自分でコントロールしたい。
その結果、自分の価値を上げていって、ひいては年収を上げたいということだ。
よくよく考えると、会社に対する不満はそれほど多くない。

そもそも「運用設計の教科書」に関しては、僕が勝手に出版社を見つけてきて、勝手に書籍を書いて、勝手に出版しただけである。
そういった例外的な社員の動きの扱いに困って、会社としては一番の安全策として会社が権利を持って社員を守るという判断をしただけである。
不満はあるが、理解はできる。
自分が何に渇望しているのかがまとまると、不思議と怒りは収まっていた。
あとはこの渇望を冷静に伝えるだけである。

うだるような暑さが落ち着いた金曜日の夜。
少し暗めの照明の、小綺麗な居酒屋で役員と部長へ僕は3つの案を提示した。
ひとつはこのまま辞める。
もうひとつは個人事業主なるので、その後に契約してもらって仕事は続ける。
最後のひとつは会社員として残るが、裁量と時間を与えてもらって年収をほぼ倍にしてもらうという案だった。

部長と役員の二人は、「こんなバカげた交渉を真正面から吹っ掛けてくる社員はこれまでいなかった」と言って笑った。
少し場がなごんで、話を進めると最後の案は難しいけど、2つ目の個人事業主になって契約するのはいけるのではないかという話になった。

その後は部長が頑張ってくれて、僕は前代未聞の「社員を辞めて有給を消化したら、個人事業主となって戻ってくる」という前例を作ることになる。
この前例は数年後に似たケースを生むことになり、いろんな人から相談を受けることになるのだが、それは別の話である。


追記。
のちに参考書を書いているサラリーマンの方と多く知り合いなるけど、著作権が会社になっているケースが思ったよりも多いことを知った。
これは会社に対するエンゲージを急激に下げるので、日本の会社は社員が参考書を書いた場合は「社員を守るために、著作権は会社が保持する」などと言わず著者に権利をあげたほうが良いと思う。
別に会社が著作権を持たなくても、社員を守ることはできるはずだ。


普段は運用設計の研修などをやってます。
ご興味ある方はぜひお問い合わせください。


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