魅惑のナイトクラブ
失恋でやさぐれていたのとコロナ禍で大好きなライブと疎遠になったことをきっかけに、私は30すぎてクラブに足を踏み入れることになった。
はじめていってしばらくは趣味でDJをする友達の応援にいっていただけで、友達の出番だけをみて終電前には帰っていた。もともと音楽は大好きでずっと心の支えだったから、コロナでライブにいきづらくなっていたタイミングでクラブに出会えたのはラッキーだった。お父さんにすすめられて高校生くらいのときからジャズをよくきいていたけど、基本的には邦楽も洋楽もロックもクラシックもポップスも自分がかっこいいと思う音楽ならジャンルを問わなかった。EDMやハウスミュージックはきいたことがなかったけど聴いているうちにすごくいいなと思った。HIPHOPは前から結構好きだった。お酒を片手にほろ酔いで大きな音楽を聴けてしかもお金もかからない遊びがこんなに近くにあるなんてとテンション高めで、コロナ禍で友達も誘いづらかったからいつも一人ででかけて友達DJを見て少しだけ話してささっと帰ってくるというややシュールな遊びを密かに楽しんでいた。
クラブに行きはじめてから3か月くらい経った頃、はじめて六本木のSEL OCTAGON TOKYOにいった。
友達からは「Avex主催のクラブ、ライトニングとかすごくかっこいいからきて」と言われた。11月頃、夏より少しはコロナが落ち着いていたのもあり仲の良い自分の友達を誘ってみた。何度も一人でいっているうちにクラブはどうやら遅い時間のほうが人がたくさんいて盛り上がるらしい(本当に20代のころを含めてクラブに行ったことがなかった)のを知って、この日は友達と赤坂にホテルをとってプチ旅行を企画した。コロナでホテルもとても安かった。
OCTAGONは六本木のミッドタウンの道路を挟んで向かいのあたりにあった。六本木にはあまりそれまで縁はなかったけどミッドタウンは好きだったので行きやすいなと思った。0時付近で友達の出番をみてそのまま残り、はじめて終電を逃した時間になった。よんでくれたDJは自分の友達を紹介するとみんなで輪になってお酒を飲みながら話してると、一人私の横から輪に混じった人がいた。いちばん最初に渋谷のVOYAGER で見たDJの人だった。こんにちは、と挨拶された。
「たぶんみたことあります!」と私が言うと自己紹介してくれて、今日この後DJしますと言われたので、
「何時ですか?」ときくと3時です、と言われた。
まいったな、と正直思った。どんなに遅くとも友達の手前1時くらいには帰ろうと思っていた。とはいえ自分できいたくせに時間まできいといて見ないのも失礼なきがするし、そもそも3時なんていう時間にここにいることが想像できなかった。
悩んだ末、一緒にホテルの部屋をとった友達に相談すると「せっかくだから見たほうがいいよ!」と言ってくれて彼女は一人で帰って私だけ残ることにした。六本木の深夜、しかもこんなコロナ禍の中で遊んでいるという状況が自分には全く似つかわしくなくかえってわくわくした。
3時をすぎてさっきのDJの人の出番になった。見てるうちに明らかに引き込まれていた。大きな電子音とプロジェクションマッピングのような照明と映像、気づいたらさっきとは違う曲変わっているけど曲の境目が分からない。明るい曲から暗い曲、ビートの強い曲からメロディアスな曲、一瞬シリアスな雰囲気すら見せたあとのフロアを盛り上げる。セクシーなダンサーが音と光に合わせて踊っていたが全然いやらしく見えなくてかっこよく、全体がショーを見ているようだった。なんというか、自分の頭の中の雑多なことが消えて何もかも忘れて無になれるくらい魅了された。
DJの音楽はまるで美しい切り絵のようだなと思った。一つ一つの曲はバラバラなのに、それぞれの良さを引き立たせるような補修がされて、全体には一度しかない一夜限りの作品に仕上がる。クラブはとても音楽性の高いところだと感動した。
終わったのはもう4時近くだった。良いものを見れたのと大学生のカラオケ以外で起きていたことのない時間の六本木にいる高揚感のまま赤坂のホテルに帰った。朝になってDJの人によかったです、とインスタでDMを送った。この日から私はすっかりクラブが趣味になった。
何度もDJを見てるうちに分かったことがある。よくDJは ❝繫ぎ❞というが、私はどちらかというと❝展開❞だと思う。曲と曲とがブツっと切れないのは当たり前の上で、はじめからおわりまで起承転結のようなものをみんな用意していると思う。私がいちばんすごいと思ったのは、オクタゴンでほとんど音が消えるような場面をDJがつくっていたときだ。みんなを一瞬盛り上げといて、映画のシリアスな場面で流れるような効果音とともに音をわざと一瞬消す。フロアは予定調和を崩されたような「え、踊ってたのにどうすればいいの?」みたいなもはや不安すら覚えるようなシーンをつくる。絵でいったらわざとある余白に近い。最後はさっきの暗さをつがえすような盛り上がりがきておわりに向かう。推しと引きのバランス。緩急のある展開を味わうのはとても面白い。クラブはナンパするところでしょ、と思っている人も多いだろうがDJはみんな真剣で、でもそのコントラストが同じ空間で行われてるというのもとても人間味がある。
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