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行きたかった。

※少し痛い(怪我の方)思い出語りです。
父も母も忙しく働いていたので、子供の頃は1人で遊んでいる事が多かった。家族で遊びに行った記憶もあまり無い。

ある時、当時流行っていたアスレチック場に父の気まぐれで唐突に遊びに行くことになった。
とても嬉しかった。

出発当日、母は朝からお弁当を作ってくれた。
本当にこんなことは滅多にない。家族3人でお弁当とレジャーシートと、水筒も持って。

出かける直前に、左足の親指に激痛が走った。
とても痛かったけれど、せっかくのお出かけが無くなるのが嫌だったし、予定が狂って父に怒られるのも怖かった。父は短気な人だったから。
母は心配していたが、大丈夫と言って出かけた。父には言わなかった。本当は痛みが少し怖かったけれど。

その日は、普通の休日を過ごしている気がして嬉しかった。痛みは気のせいだと言い聞かせて。
でも、夕方になり、足を引きずっている私を見て流石に父も気づいた。
朝から痛がっていたなら、何故俺に言わなかったと、父は母を怒った。

それからすぐ救急病院を調べて、当番だった整形外科に向かった。結果的に整形外科で良かった。レントゲンを撮ったら、私の左足の親指に、一本縫い針が刺さっていた。
お医者さんも驚いていた。一日中痛かっただろうに、と。

針が刺さっていたと知って、父は驚き、再び母を責めた。「お前が縫い針をキチンと片付けなかったから」。大きな声で。そして私にも。
痛いのと、私もほんの少し母を責める気持ちと、一日を台無しにしてしまった悲しさと、やっぱり父に怒られた怖さと。

簡単な手術の後、うどん屋に入ったが少ししか食べられなかった。

「どうしてすぐに言わなかったんだ」

「行きたかったから」

父は黙っていた。怒られなかった。
(針を見ると思い出します)