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私的推薦盤~神保彰『Crossover The World』

 もう還暦を迎えられたと言うのに実に若々しいお姿なのが世界的なドラマー、神保彰である。何度かお会いしているのだが、本当に若々しい。十歳くらい下なのに、私の方が老けて見えてしまうのが本当に嫌になってしまうくらい若々しい。いや、見かけの若々しさばかりを言ってはいけない。何から何まで若々しいのだ。

 そんな神保彰との出会いはやはり私が高校生の時のこと。だから神保彰もまだ二十代後半だったということになる。カシオペアのドラマーとしてすでにその業界では凄腕として名が通っていたわけだけれど、当時の私はひたすらベースの櫻井哲夫にばかり目が行ってたので、正直高校時代は神保彰のドラムに対して私は誠実ではなかったかもしれない。

 その当時から神保彰はソロアルバムを精力的に発表していて、やはり赤貧の私はそうそう買えるものではなかったし、地方に住んでいたため、レンタルレコード屋でも神保彰のものは無く、そのせいで彼のソロアルバムを聴くのはずっと後になってしまった。

 ある時、東京の西のはずれで一人暮らしをしていた私は、小さなCD屋が閉店セールをやっていることを知り、売れ筋はあらかた無くなっていたところで神保彰の『PANAMA MAN』をなんと500円でゲット(それも新品)。そこから神保彰のソロアルバムを聴き始めることになる。

最初はラテンや南国リゾート的な雰囲気にちょっとなじめなかったのだが、聴きこめばどんどん好きになっていった。このころの神保彰のソロアルバムは、なんというか嫌味のない明るくあたたかな雰囲気の曲調が多かったのだ(今もそれはほとんど変わってはいないけれども……)。「FIRST STRIDE」という曲は今でもジーンとくる。

 そんなわけで、全部ではないのだけれども、お金に余裕がある時には彼のアルバムを買い足していって、全部はそろっていないけれども気がつけば結構な枚数になっていた。途中、ソロプロジェクトを中断していた時期もあって、今は第二期というべき時期がずっと続いているとでもいえばいいのだろうか(それにしちゃぁ、長いかな)。

 ここでメインとして採り上げる『Crossover The World』は、私にとっては何とも懐かしい雰囲気もありつつ、いつもの神保彰、という感じがして安心して聴けるアルバムである。特にアルバムのタイトルともなっている「Crossover The World」がいい。どこかカシオペアな雰囲気もあるし、彼自身が「今カシオペアをやってたら、こんな感じかなぁ」とワンマンオーケストラのライブで言っていたのだが、それもうなづける曲調である。

 毎回ギタリストをゲストで招いてアルバムづくりをするわけだが、このソロプロジェクトの第二期ではベースにエイブラハム・ラボリエル、キーボードにオトマロ・ルイーズをずっと起用してきた。私としてはエイブラハム・ラボリエルのベースは、音色がちょっと好みではない(もちろんテクニック、グルーブ感、すべて申し分ないし、ため息が出るわけだけれども……)。だから最近は、ジミー・ハスリップやウィル・リーなんかともやることがあるのはちょっとうれしい。

 仕事の関係から一度お招きしたことがあって、少しだけお話もできたし、その後に出かけたライブでも顔を覚えていていただけたのは、ミーハーな私としては感激だった。いつも物腰が柔らかで、穏やかながらもじっと心の奥底までを見とおすような視線に緊張することしきりだったけれども、そんなところもまた私のハートをとらえて離さないのである。

 一つだけ苦言を言わせていただくとすると、毎年2枚ずつアルバムを出すのは勘弁していただきたい。小遣い制の私にはお金が続かない。しかも今年は一気に3枚も出されてしまって、ちょっとお手上げなのだ。最近買うのを少しごぶさたしてたら、もうかなり溜まってしまった。やばい、追い切れていない私がいる……。

 あ、ドラマーとしての魅力を全然語っていなかった。ドラムに関しては無知な私なのだが、テクニック的なものについてはまったく語れないとして、私は神保彰のドラムを聴いてから、「パァーン!」という張りがあって少し高めのキーの方が好みになった。そういえばフィル・コリンズもそうかもしれない。アート・ブレイキーもそうだったかな。「ドスッ! バスッ」という音よりも、甲高い音の方がなんだか好みなのだ。そんな甲高い音で球数の多いドラミングを聞かされると、もうなんだかトリップ状態になってしまうのである。

 あ、ソロアルバムではそんなに特別に球数が多いわけじゃないしトータルバランスのことも当然考えられているので、ドラムのことだけについて聴くなら動画サイトでワンマンオーケストラを見ることをお勧めしたい。

 いずれにしても、この先もずっとお元気でご活躍いただきたいものだ。でも次にライブに出かけたら、きっと私の顔など忘れてしまっているんだろうな……。

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