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Deep LearningとAI その先の世界  (サム・アルトマン氏来日後)

  日本の製造業や公官庁・役所はデジタルフォーメーション(DX)にも移行できていない中で、Chat GPT4およびBeing AI (どちらもOpen AIのコア技術利用)の精度の高さに社会が反応しています。OpenAIがAPIを公開したことで、大きく世の中が動き出しました。 DXの本質が理解できていなかった産業界においては、マインドブローになったでしょう。そして、日本ほどの先進国においてもAIによるリープフロッグ現象が現れる事態になっていることに、感覚として追いついていかなければなりません。 

本紙の目的

今回は、Chat GPTの使い方のような話ではなく、AI技術による社会変革の大きな”うねり”を考察していきます。

1.AI(人工知能)開発

私は1989年に大学の研究室でエキスパートシステムの開発を学びました。エキスパートシステムとは、「人間がコンピュータに大量の専門的な知識を覚えさせて、現実問題を解かせることを試みる」というアプローチのことで、膨大な教師データを人間が入力する必要があり、定型化し難い事象については汎用性を持たせられず、更新コストの発生が伴うことから実用的ではないと感じながらPCをいじっていました。

出典:JDLA

2.機械学習からディープラーニングへの発展

第3次AIブームは、画像認識精度の飛躍的な向上と、学習対象の特徴量(認識するためのパラメーター)設計を完全にコンピュータ自身で作ることができるようになったことで起きました。 これには、クラウドサーバーやCPU, 通信技術の高度化といった計算リソースの存在もあります。
 「機械学習」では、より精度(=正確さ)を高めるために、特徴量の設計を人間が調整する必要がありました。「ディープラーニング」では、ニューラルネットワークを多層にしたものを用いて機械が自動的に大量のデータから特徴を抽出する学習アプローチとなります。
2015年には人間(エラー率5.1%)を上回る精度で画像認識ができるようになり、今ではその精度は、99.n%を達成しています。さらに、音声認識も95.n%のレベルに到達したことで、画像や音声、テキストなどの非構造データも扱えるようになり、今の産業DXの流れに繋がって来ています。
テレビ会議の議事録作成や、製品の受け入れ/出荷検査の自動化、無人ストアなど、活用の拡がり方の速さは人類史上最速と言われています。

3.ChatGPTの衝撃

OPEN AIのChatGPT4は、未だ工夫は要るものの十分使えます。
今まで企業の若手社員やアシスタントが担ってくれていた仕事を、ものの数秒で8割程度の仕上がりまで準備してくれます。上司が若手の壁打ち相手となって一定の信頼(もしくは逆ダメ出し)を得ていたプロセスは、ChatGPTがより効率的な代役となってくれるのです。教育機関の座学の先生方においても同様のことが当てはまります。

ここで、先般来日し岸田首相等と面談したサム・アルトマンCEOのプレゼン資料を今一度参照したい。
同氏は、OpenAIの基本理念が非営利に基づくものであることを切々と訴えました。利用禁止を表明する国が出現する中で、他国に先んじて日本を訪問したことの背景に、生成AIを活用出来得る法規制の余地があることと、GPTの技術に対する日本人の応用力の高さにあると言われています。未だにDXにマインドが追いついていない側面の多い日本ではありますが、OpenAIを始めとしたDeep Learningの高度化によって実現したGPT(Generative Pre-trained Transformer)の威力を、日本の産業界は元より社会全体をより良いものにするためにどのように活用していけるのか、その渦中で楽しめるチャンスを我々は与えられたのです。

Open AI社 来日時プレゼン資料一部

AgentGPTの仕組み:

出典:Boceks社のPROMPTY2023年4月15日記事

AutoGPTの仕組み:

出典:Boceks社のPROMPTY2023年4月15日記事

4.今求められること

  1. 使用/試用
    OpenAIがAPIを公開したことにより、さまざまなApplication開発が次々に進むでしょう。 やや安易なSaaS Appを携えたStart-upが多発することも予想されます。  一方で、現行体制をdisruptすることを恐れる経営陣や幹部がいる組織は、生成AIを業務上で活用することを禁止することも出てきています。 日常的にAIを活用できる人と、活用できない人の間には大きな知的分断が起きるかも知れません。また、活用できる人であってもただ、与えられた環境の中で無条件に無意識に”作業”をしてしまうことは、その先の未来もAIが出した回答(≒指示)に従って動かされる作業者に陥ってしまう危険性が多分にあります。 
    生成AIを使う側になるか、使われる側になるか、能動的に仮想思考対応することの重要性が、今まで以上に増していることは間違いないでしょう。

  2.  AIを使う側になるために
    大げさではなく、将来AIを活用する側になるか、AIに使われる側になるかという分かれ道に我々は差し掛かっていると思います。
    自らの、そしてコミュニティの未来を明るいものにする3つの要素;

    ・<知>未来志向と目的思考
        未来を見通すことは難しいが仮説を立てることは可能。
        目的を共有し、好奇心をもって目指す将来図を段階的に描くこと
        ができるのは人間。
    ・<力>構想力と行動力

        過去のデータ、既存の体制に囚われずに構想し、試行錯誤を重ね
        ることができるのは人間。
    <心>社会性と互助性
        人としての尊厳や感情を大切にし、お互いに助け合えることが
        できるのは人間。   

  3. 活用するための自主規制
    ChatGPT4においても、理論的には生成する文章の次に出てくる最適な文言を学習したデータセットの中から高速で抽出して文章を繋いでいるに過ぎないことから、文言の持つ意味合いや、相手の感情面への配慮、事実関係の確認などは未だ解決していない。 そのため利用者側に留意点を喚起しつつ、適切なルールを設けて活用を促進する施策が重要となります。

    一般社団法人日本ディープラーニング協会が2023年5月1日付けで発行した「生成AIの利用ガイドライン(第1版)」のような、積極的かつタイムリーな動きは、貴重であり参考に値します。 注意喚起の体裁を取りつつも、著作権関連の整理を提示する形で活用を促しています。下記参照してみてください。

  4. 各業界ごとの運用基準や活用促進施策の打ち出し
    市町村地域や業界毎に、運用面や効果的な活用範囲が異なる場合がありますので、一定の纏まりの下に、運用基準や活性促進策を作成することが、日本の産業界の発展および社会の進化に大きく寄与すると考えています。
    日本の文化や精神性を基盤とし、AIを地球環境改善や社会活動、ひいては人々が心豊かな人生を送れる良好な関係性の構築につながるジャパンモデルを世界に提示出来ないものでしょうか。業界の垣根を越えて協働すれば実現できるのではと考えています。

5.社会変革のためのAI

AI技術の活用は、様々な切り口で検討が可能です。ここでは、社会包摂の重要性に関連し、潜在的な障害者を含む社会課題解決へ向けた活用について触れたいと思います。

 1)障害とAI  

   【 現状】
内閣府調べによると国内の障害者数は964.7万人(H30年版)
内訳は、身体障害者(障害児童を含む。以下同じ)436万人、
知的障害者109万4千人、精神障害者419万3千人となっている。
国民のおよそ7.6%が何らかの障害を有していることになる。

出典:厚生労働省HP

【障害者増加の要因】
なぜ、増加し続けているのか。 主たる要因は高齢化による65歳以上の身体障害者の増加が大きく寄与しています。この点は健康寿命の延伸対策(健康医療関連器具、社会活動参画等)が実行されています。一方、看過出来ないのは、どの年齢層も増加している知的障害です。(図表2参照)

図表2:年齢階層別障害者数の推移(知的障害児・者(在宅))

出典:内閣府HP

原因に関する研究発表されている分野に加え、私の仮説を追加したものが以下の図表3です。個人の努力や意識で変えられるものは、睡眠ぐらいでしょうか。他人の目に触れ難く顕在化しないまま我々の精神が蝕まれてしまった結果、後天的に障害を負うリスクは高まっていると推定できます。

行政の動きとして障害者差別解消法の改正による合理的配慮の義務化が確定し、具体策を各企業が検討しています。そこに画像・モーション・音声・その他の認識技術の高度化や脳波の読み込みなどの技術進化が顕在化しました。 今まで意思疎通が困難だった方々(潜在的な障害者かもしれない一般の方を含む)が、より容易に社会や地域コミュニティの一員として参画し易い環境が得られるのではないでしょうか。

 2)AIとBlockchain

AI の技術とBlockchain(中央管理者に拠らずに検証可能なインターネット上の台帳システム)は、公平性、真贋検証、因果関係の追求に大いに効果を発揮するものと思われます。ここでは詳細は割愛します。    

 3)NFTと障害支援

障害者が周りの手を借りずに、自らの実績を明示できる手段としてNFT(Blockchain上で正規の所有者を特定できるデジタル証)
を活用することが検討できます。障害者による自由な創作活動を経済活動に繋げる手段となります。この点は障害者就業支援センター等とも連携して社会実装へつなげたいところです。

6.「明日は今日のつづき」ではない

AI技術が社会に浸透した世界をどのように想像するか。
OpenAIのサム・アルトマン氏は、基本方針として社会性・安全性を重視しつつ、ユーザー/開発者によるカスタマイズがし易いように改修する考えを示しています。さらに、オープンにすることで、良い側面・悪い側面を率直に議論できる環境をつくり、更に社会をより良くするモデルにしていくために真摯に向き合っています。(公言している)

一般企業内においては、Microsoft 365のCoPilot(AI)が劇的に従前の作業を効率化することは間違いありません。それに於いては人は与えられた業務ソフトを使用するだけで、深く考えることは無いでしょう。 しかし、改めて多くの人は今まで「仕事」と思ってしていた業務が「作業」であったという事実を突きつけられることでしょう。 多くの業務は客観的にみると事実データを加工し依頼者なり、他のAppへInputすることだと集約すると、従前は認められていた付加価値が剥落してしまうことになるわけです。

産業界においては、近年さまざまなSaaSアプリが世に出ましたが、その多くは、AutoGPTによって塗り替えられてしまう可能性が高いと思います。
また、利用者/企業が独自にカスタマイズし易いことから、特殊な開発企業へ委託する必要性は必ずしも起きず、自社内で対応できるまで簡易化・一般化する可能性を秘めています。 飛躍的に進化したRPA(Robotic Process Automation)というイメージかもしれません。 一方で、組織内で安易に使用禁止にしている場合は、組織力を相対的に弱めてしまうリスクを抱えてしまいます。如何に活用するための体制を築き、AIモデルの成長と共に組織力の向上を図れる基盤を築くことが極めて肝要となるでしょう。

教育機関においては、コロナ禍で加速したGiga-School構想の土台の上で、一足飛びに「座学」要領に変革が求められています。残念ながら文科省以下、教育の現場が、刷新するまでは相応の時間が掛かるかもしれない点が、懸念されます。 現時点ではChatGPT4は、非常に有能な家庭教師役を演じてくれます。子供たちの興味を遮ることなく深堀りできるとしたら、いかがでしょうか。親や教師は時間や能力的な制約がありますが、ChatGPTにはその制約はありません。 如何に有益な取り扱いを習慣化するかによって、デジタルディバイドを加速することになり兼ねない点に留意が必要です。

芸術等の創作活動においても、潜在的な思い込みや常識の壁を越えさせてくれるツールとなるでしょう。それでも自己のオリジナリティこそが芸術の真骨頂であることから、発想や加工工程を短縮し、世の中に送り出せる芸術作品が多く生まれることに繋がると思います。多くなることで陳腐化する過程を得ながら、芸術の新たな境地が切り開かれるのではないかと想像しています。

ここまで、生成AI, ChatGPT4等の大規模言語モデル(LLM)の良さを強調してきましたが、学習するというLLMの特性があるゆえに、意図的な誤情報、プロバガンダ、AI生成論文なり、著作物(AI生成物を加工したもの)を学習して、あたかも正論や事実であるかのようにAIが回答する可能性が増えることも想定されます。つまり数年内に誤情報や扇動的な文章が氾濫することも十分起こり得ると推測でき、現状のLLMの運用のままでは利用に耐えなくなるかもしれません。
その仮定に立つと、個別にカスタマイズしたLLMか、Blockchain等で本人認証や真正性を担保できるコンテンツの希少性が高まると考えます。ドキュメンタリーであれば、一次情報を正確に抑えた作品が、情報メディアにしても、そのコンテンツの真贋を明らかにできるものしか有益な価値を持たなくなると予想しています。(趣味のものは除いて)

上記のようなことから、”今”、時間の許す限り生成AI技術に触れ、思考を深め、直ぐに訪れる近未来に備える必要があるでしょう。 我々はSFだった世界に足を踏み入れつつあるのです。

7.最後に

ダイナマイトの発明が明らかにしたように、新たな技術の潜在的な力は、その力を正しく管理し、制御するための人間の精神性と倫理的判断力を試すものであります。Deep Learning 技術の進歩とAI全般がもたらす力の活用が全地球市民の社会性と公益性に対する貢献につながることを強く希望しています。同時に、この新たな力の誤った利用へのインセンティブが働かないように、どうすれば良いのかという問いは、我々の人間性と知性に対する深遠な挑戦を表しています。これは、ホモ・サピエンスが様々なものとの共存関係の中で、次の段階への進化を追求する必要性、そして我々がその端緒に立たされていることを示唆しているかもしれません。
                        (著者)小浜吉記

(参考・参照文献)

<公官庁>
令和5年度経済産業省予算案のPR資料一覧:エネルギー対策特別会計 (METI/経済産業省)
*内閣府https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r03hakusho/zenbun/siryo_02.html

<業界団体>
Research | MIT CSAIL
一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】 (jdla.org)
学会概要 – 人工知能学会 (The Japanese Society for Artificial Intelligence) (ai-gakkai.or.jp)

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