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関友美の連載コラム「ただの清酒醸造所ではない、酒蔵の大きな役割」(リカーズ6月号)

そうだ。日本酒を飲もう。十五杯目
ただの清酒醸造所ではない、酒蔵の大きな役割

私はフリーライターとして活動するかたわら、兵庫県宍粟(しそう)市にある「山陽盃酒造」のスタッフとして「播州(ばんしゅう)一献(いっこん)」の広報活動・ブランディングを中心に酒蔵の仕事に従事しています。
そんな山陽盃酒造で今年の3月、「おにぎりプロジェクト(#onigiriforlove)」がおこなわれました。「世界のベストレストラン50」にも選出された東京・南青山にあるレストラン「NARISAWA」の成澤由浩氏と国内外で和牛事業を手掛ける「WAGYUMAFIA」の浜田寿人氏が発起した、コロナ禍で闘う医療従事者に、「おにぎり」を結んで届けようという炊き出しプロジェクト。富山県の「満寿(ます)泉(いずみ)」から始まり、福島県の「冩(しゃ)楽(らく)」、和歌山県の「紀土(きっど)」、宮崎県の焼酎蔵「百年の孤独」など全国各地の酒蔵を回られています。

今回で14回目。場所と兵庫県の食材を提供するなど酒蔵全面支援のもと、県内の料理人さんたちにもボランティアで協力していただき、みんなで300セットのおにぎりを宍粟総合病院に届けました。「こんな時だから、地元に明るいニュースを」という想いで賛同し、取り組んできました。病院の方からの「コロナ禍になって2年超、悪戦苦闘しています。大きな勇気をもらいました。おにぎりで一息いれ、これからも地域のために精いっぱい頑張ります」と、いう言葉が胸に染み入りました。

このプロジェクトの裏方の中心として携わらせていただき料理人さんと関わり、生産者さんのもとで食材を買い付けたら、今まで見えていた「食の世界」がより立体的に見えてきました。今回のおにぎりは『姫路の筍と明石のタコの桜おにぎり』と 『明石の鯛の浜蒸しと鯛の子の親子おにぎり』という春らしい2種類でした。
兵庫県は「日本の縮図」といわれ、あらゆる地形や地質、気候などの自然環境が広がっています。瀬戸内海、太平洋、日本海に接し、鳴門海峡の渦潮にもまれたタコや鯛はおいしく全国でも人気のブランドです。有名な姫路市太市の筍は、3月下旬が初出荷。大きくて立派で味わい深い筍は、地元だと2500円/㎏くらいだけど、神戸や都市部に出荷されるとその倍以上もの価格になるそう。山菜の旬は、4月末からGWにかけて。「もうそんな時季か~」なんてぼんやり暮らしていると気づかない市場の様子が、生産者さんひとり一人のお顔を重なり、記憶に残りました。

改めて、酒蔵は酒を造って販売するだけでなく、古来より地域と密接に関わってきたことを実感します。地元の顔となり、共存し支え合って現在があります。酒蔵が担う責任とともに、あらゆる明るい可能性を感じ、身が引き締まる経験をしました。

日本酒発祥の地・宍粟市で「播州一献」を醸す山陽盃酒造でおこなわれた「おにぎりプロジェクト」

  

今月のピックアップ酒蔵

日本清酒(北海道)

札幌の真ん中で「千歳鶴」をつくる日本清酒。1872(明治5)年に創業した「柴田酒造店」が前身。醸造所からすぐの場所に広大で清らかな豊平川が広がる。札幌南部・定山渓のさらに奥にある緑豊かな山々が水源の豊平川の伏流水を、創業以来変わらず使用している。原料米は、一部を除き北海道産。女性杜氏・市澤智子氏が醸す柔らかな味わいの、札幌っこが「我らの酒」と愛する地酒だ。

以上

庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」6月号より

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