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関友美の連載コラム「無洗米で日本酒づくり、が当たり前の未来がくるかもしれない」(リカーズ1月号)

そうだ。日本酒を飲もう。二十二杯目

無洗米で日本酒づくり、が当たり前の未来がくるかもしれない

 かつて「地球は唯一神がお創りになった惑星で、すべての天体は、地球の周りを回っている」とする天動説が当然とされていました。イタリアのガリレオ・ガリレイが地動説の根拠となる理論を数多く見つけ主張しましたが、カトリック教会から有罪判決を受けたのは有名です。その後ポーランドのニコラウス・コペルニクスは、1年が365.2425日であることを発見し、「コペルニクス的転回」を発表します。とはいえ、迫害を恐れて長年発表をせず、亡くなる直前の1543年にようやく地動説を唱えたのだといいます。現代のわたしたちには、なんとも“トンデモ”な出来事として映りますが、当時の人たちは真実として信じていたわけです。

 どの業界にも「当たり前」が存在し、前出の天動説のように「常識」とされていたものもあれば、「流行」の域に留まるものもあります。日本酒業界でも「原料米は白い水が出なくなる(糠が完全に落ちる)までしっかりと洗米する」という常識があります。この「洗米」は本当に必要なのか?と疑問を投げかけ、「無洗米」での酒づくりにチャレンジしている人たちがいます。

現在普通に売られている食用と同じく、日本酒醸造専用の酒米を洗わずに醸造に使える「無洗米」。精米後により綺麗に糠を洗い落とすか、タピオカ粉で糠を吸着するなどいくつかの手法があるそうです。

国内最大手の精米機メーカー・サタケ社を抱える広島県のレポートによると、「清酒製造工程からの排水に含まれる全有機物の約 80%は、洗米により発生し、生デンプンを主体とする炭素源を多く含み、窒素・リンが少ない等の特徴を有する。そのため、この廃水は活性汚泥法等の微生物による処理には不向きで、一般には凝集沈澱法で処理されている」ので、「洗米が省略できれば、排水中の有機物量の大幅な削減が可能となり、排水処理コストの大幅な低減化も可能になると思われる」というのです。日本酒づくりには、直接タンクに入れる水以外にも、洗米や道具の洗浄用水など大量の水=地域資源を必要とします。無洗米に切り替えると、酒づくりに使用する水が10分の1で済む計算になるそう。

ただし、日本酒の味わいや品質が落ちるようでは元も子もないですし、結局は「無洗米」化する時点では排水や廃棄物が生じるため、長年かけて課題を解決してきました。近年、少しずつ実験を兼ねた商品化の動きも出てきています。

もしかすると10年後、20年後には「大量の水を使って必死に洗米していた時代が?なんで?」とすら感じる未来が待っているのかもしれません。ガリレオのごとく、あらゆる可能性に勇敢かつ臨機応変に挑戦・対応できる会社の日本酒を応援していきたいですね。

MJP洗米機で10kgずつ丁寧に洗米する様子(山陽盃酒造)

今月の酒蔵

白瀧酒造(新潟県)
米どころ・越後湯沢に位置する、安政2(1855)年創業の酒蔵。1990年に発売した「上善如水」が大ヒット。全国の地酒ブームをけん引した酒だ。銘柄名は、哲学者・老子の言葉 「人間の理想的な生き方は、水のようにさまざまな形に変化する柔軟性を持ち、他と争わず、自然に流れるように生きること」から引用され、するりと喉の奥へと落ちるシンプルな味わいを目指している。2006年に29歳の若さで社長就任した七代目・高橋晋太郎氏が新改革を進め、誇り高き老舗の看板を守っている。


以上

庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」1月号より

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