「メキシコから日本酒への情熱:NAMIの挑戦」関友美の日本酒連載コラム(リカーズ11月号)
現在、北米には31の酒蔵があります。中南米には4と少し(建設中の蔵を含む)あるそうです。その内の26蔵が加盟している「北米酒造同業組合(SBANA)」がこの夏、新潟県での酒造研修を実施しました。
研修にあわせて来日したメキシコ人ふたりを車で案内する機会に恵まれ、丸2日行動をともにしました。現地で「NAMI」というSAKEをつくるSakecul社の杜氏・エルネストさんと、蔵人であり酒米育成責任者のルイスさんです。
Sakecul社は、メキシコの北西部、シナロア州の州都クリアカンにあります。太平洋に面した人口80万人のほどの町で、魚介類が豊富なところです。調べてもらえばわかりますが、治安がよろしくない場所としても世界的に有名です。だからクリアカンのイメージを変えたい、という経営陣の強い意志と日本酒への敬意から「NAMI」は誕生しました。
杜氏のエルネストさんは、就任して8年。大学院で化学を研究していた彼は、いくつかの職業を経て現職に就きました。農業責任者のルイスさんも、トマトやチリペッパーを評価していた農学博士。優秀な彼らが、メキシコ初となる、はるか遠い日本の国酒・日本酒をつくるモチベーションは何なのか、道中で質問しました。
「日本酒はおいしい。日本における日本酒への想いに敬意を感じる。メキシコで日本酒をつくることは困難の連続で、既存の知識や経験だけでなく、あらゆる分野で学び続け、挑戦するしかない。まったく飽きることがなく面白い。日本でも認められるような酒をつくり、その後メキシコらしいオリジナルの味わいをつくっていきたい」。
すでに「NAMI」の味わいは悪くありません。とはいえ、目標達成のためには機器や道具など日本と近い環境を整える必要があり、それは容易ではありません。酒米の生育環境も日本とはまったく違います。オリジナルの品種開発が必要かも。作業にあたる農家に、食用米との違いを理解させることも重要です。それでも、彼らはすべてを解決していこうと奮闘しています。
だから、日本酒の中心地・兵庫県をめぐるスケジュールを立てました。酒米試験地、剣菱酒造、白鶴酒造、本田商店、全農パールライス、山陽盃酒造、下村酒造店、山田錦特A地区(吉川)の田んぼ、日本酒バー「試」など。これから彼らの酒が進化する過程で、一助になることを願います。
文化学、醸造学、料理とのペアリングなどあらゆる観点から感度の高い人たちを中心に、世界中でいま、日本酒が注目されています。味わいも多様化しています。日本にいて、飲まない理由はないと思うのです。本場・日本も負けてられないぞ!
※日本産米使用、日本国内製造の酒のみ「日本酒」と呼ぶことを国税庁が定めていますが、ここでは便宜上「日本酒」と表記している箇所があります。
今月の酒蔵
五十嵐酒造(埼玉県)
新潟県出身の初代久蔵は、杜氏として青梅の「澤乃井」小澤酒造につとめていたが明治30年に独立して飯能の地で酒造りを始めた。代表銘柄は「天覧山」。2010年にできた新ブランドは「五十嵐」。淡麗でキレのよい酒を目指している。名栗川と成木川の合流点近くに建てた蔵で、仕込み水は奥秩父の伏流水で、深さが異なる3つの井戸から汲み上げて利用する。軟水、カルシウムを多く含む中硬水など水質が異なるため、酒によって使い分けている。
以上
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」11月号より
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