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関友美の連載コラム「思い出の「奥能登の白菊」と、変わらぬ安らぎの場所」(リカーズ11月号)

そうだ。日本酒を飲もう。二十杯目
思い出の「奥能登の白菊」と、変わらぬ安らぎの場所

以前にも増して、お付き合いでとりあえず…という飲み会が減りました。出掛けるのは、「大切な人」と一緒に、「どうしても行きたい店」に行くときだけ。ひとり酒も多いので、人の比重が大きいか、店が目的になるのかはその時々によります。さらに近年足が遠のいていた、昔よく通っていた店に再訪したくなる気持ちがムクムクと。
そのうちの一軒が、月島にある「味泉」さんです。ミシュランガイドに掲載され、小山薫堂さんもオススメの一軒として名を挙げるほどの、なかなか予約が取れない名店。そんなこととは露知らず、かつて近所でOLをしていたことから、同僚が「月島 日本酒」なんて検索してくれて、かつて通っていました。

特に魚がおいしく、旬の刺身盛り合わせは頼まなきゃ“何しに行ったの?!”とツッコミたくなる逸品。年中食べられる穴子は名物。わたしはそのおこぼれともいえる「骨せんべい」が大好きで、当時の料理長から「中身が出ないと、骨せんべいはできないんだからね!」って冗談まじりに言われたくらいです。その時々の数種類の骨が一皿に。油も良質で旨くて、そりゃあもう酒の肴に最高です。日本酒は、東北の地酒を中心に60種類以上!メニューは壁に短冊で貼ってあるのだけど、正面、左、右…と見て迷い、結局はオススメでお願いしちゃうんですよね~。


もう10年以上前になりますが、残業終わりの遅い時間に「一杯だけ!」と駆け込んだ日も。それでも優しいおひげのマスターが、日本酒覚えたての二十代の若者だったわたしに、懇切丁寧においしいお酒を教えてくれました。日本酒談義をしていると、ハッと閃いて「それだったら…」と、バックヤードから一升瓶を抱え「これどうですか」って言ってくれる情熱あるマスターが大好きでした。

もちろんオススメのお酒はどれも美味しくて、特に「奥能登の白菊」のお燗が、記憶に深く刻まれています。錫のちろりからお猪口に注ぎ、傾けると「く~!これこれ」と思わず唸る、旨味が引き出される理想的な温度のお燗。無理やり例えるなら、ホット黒豆茶みたいな滋味深いお味です。

そんな思い出の「奥能登の白菊」をつくる白藤酒造店に、昨年取材で行くことがありました。取材前にはつい「マスター、ついに仕事で来られるようになりました」と心で呟いたものです。足が途絶えた一人の客を覚えてるなんて思っていません。それでも無性にマスターに会いたくなって、蔵で買った酒を手土産に、久々に行ってきました。変わらぬ誠実なお店。旨い料理と酒。「ただいま」を言える場所があるのは、嬉しいものです。

今月のピックアップ酒蔵

浅舞酒造(秋田県)

“米作りから始まる酒造り”という気持ちを大切に、2011年より純米酒のみを仕込んでいる。原材料となる米は、蔵の仕込水と同じ水で育つ、近隣の横手盆地産米のみにこだわり、トレーサビリティという認識が定着する以前の25年前から誰が作ったのか「顔が見える」米を使用する取り組みを行っている。蔵人の一部は “夏は田んぼ、冬は蔵人”という生活をしている。こうして造られた「天の戸」は、重労働ながらも全量「古式槽しぼり」によって大切に搾られ、出荷されている。「味泉」さんでも定番。

以上

庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」11月号より

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