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マイ・フェイバリット・ソングス 第21回~リンジー・バッキンガム

(2024年9月改訂版)

リンジー・バッキンガムは僕が世界で最も好きなアーティストであり、最も好きなギタリストです。彼の作る楽曲、歌声、ピックを一切使わないフィンガー・ピッキングのギタープレイ、全てが僕のツボ。「世界で最も過小評価されてるギタリスト」とも呼ばれていて、ローリングストーン誌の「歴史上最も偉大な100人のギタリスト」でもギリギリ100位とかだったりするんですが、僕の中ではベスト・ギタリストです。


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『BUCKINGHAM NICKS』(1973年)

フリートウッド・マック加入前に当時恋人だったスティーヴィー・ニックスとデュオでリリースしたアルバム。このアルバム自体は売れなかったそうだけど、「Frozen Love」を聴いたミック・フリートウッドがリンジーを誘い、「ニックスと一緒なら」という条件でフリートウッド・マックへ加入したそうです。このアルバムには後に『Fleetwood Mac』に収録される「Crystal」も入っています。すでにアレンジなどは完成形に近い。また「Eyes of the World」の原型ともいうべき「Stephanie」というインスト曲もあります。他にも佳曲揃いでいいアルバムです。数年前まではけっこうなレア盤だったけど、2017年に復刻盤としてCDもリリースされているので、今では手に入りやすくなっていると思います。


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『Law & Order』(1981年)

フリートウッド・マック の活動と並行しながらリリースされたファースト・ソロ・アルバム。1981年だから『Tusk』の後ですね。まずミック・フリートウッドがドラムを叩く「Trouble」がビルボード9位とヒットしています。リンジー・ソロの代表曲ですね。「Shadow of the West」ではクリスティン・マクヴィーがコーラスで参加。クセが強めな「Bwana」と「That's How We Do It in L.A」は『Tusk』に収録されていてもおかしくない雰囲気ですね。「Jonny Stew」も実験色が強めの攻めた楽曲。また、カバー曲としてスタンダード・ナンバーの「It Was I」「September Song」「A Satisfied Mind」がリンジー風にアレンジされて収録されています。全体的に楽曲は良いですが、その後のアルバムに比べるとギタープレイがあまり前面に出てないのがちょっと残念かな。「Mary Lee Jones」のアウトロのエレキギターなんかはカッコいいですが。ソロ・アルバムでは最もフリートウッド・マックの雰囲気に近いアルバムと言えるかもしれません。


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『Go Insane』(1984年)

フリートウッド・マックの『Mirage』と『Tango in the Night』の間にリリースされた2ndソロ。元ガールフレンドのキャロル・アン・ハリスに捧げられたと言われています。これはかなり実験色が強いですね。当時最先端のサンプリングシンセ「フェアライトCMI」を導入し、かなりエレクトロなサウンドになっています。ドラムはプログラミングで、「I Want You」と「Go Insane」以外はすべてリンジーが楽器を演奏しているとのこと。リンジーは表題曲「Go Insane」を気に入ってるようで、後年のライブでもアコースティック・バージョンでよく演ってますね。中盤の「Playing in the Rain」「Playing in the Rain(continued)」は前述のフェアライトを使いまくった前衛的な曲。「Bang the Drum」はエルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」を思わせるメロディで始まり、フリートウッド・マックの「Eyes of the World」そっくりのアレンジに展開するというニヤリとさせられる一曲。ラストの「D.W.Suite」は前年亡くなったビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンに捧げたというプログレのような曲です。リンジーのソロの中ではけっこう異色作なので、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、ここでの実験が『Tango in the Night』に繋がったことは間違いないですね。ちなみにリンジーはこの翌年「We Are The World」に参加しています。


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『Out of The Cradle』(1992年)

『Tango in the Night』リリース後フリートウッド・マックを脱退したリンジーが5年がかりで作り上げた3rd.ソロ。やや難解だった前二作に比べると非常にポップで聴きやすくなっています。僕は大学生の頃ヘビロテしまくっていましたね。アコースティックな要素もあるし、ギタープレイは堪能できるし、今でも大好きなアルバムです。これもドラムは打ち込みですが、一部の曲を除いてほぼすべての楽器をリンジーが演奏しています。あとこのアルバムはリチャード・ダシュット(フリートウッド・マックのプロデューサー)が共同制作しているのも大きいですね。リンジーとは抜群の相性。16曲入りなので大ボリュームのように見えますが、うち4曲は短いインスト曲なのでトータル48分に収まっています。(このインストのギターがいずれも素晴らしい) 一曲目のIntroductionのリンジー節に惚れ惚れしていると、そのまま一気にラストまで持っていかれます。全曲好きですね。あえてお気に入りを挙げるとすれば「Soul Drifter」「You Do or You Don't」「Surrender the Rain」「Doing What I Can」かなあ。でも、このアルバムは頭から通して聴くのがいいですね。ちなみに「All My Sorrows」と「This Nearly Was Mine」はカバーです。個人的にはこのアルバムがリンジー・ソロの最高傑作だと思うので、これからリンジーのソロを聴いてみようという方にはまずこれをオススメしたいのですが、残念ながらCDはもう廃盤になっているんですよね…。(売り上げはイマイチだったようで、今では「隠れた名盤」なんて呼ばれることも)こんな大傑作が廃盤とは残念でなりませんが、Apple Musicなどのサブスクでは聴くことができます。


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『Under the Skin』(2006年)

フリートウッド・マック への再加入、『Say You Will』のリリース、フリートウッド・マック の休止を経ての4th。ソロとしては14年ぶり。大きな特徴は、アコースティック中心のシンプルなサウンドということですね。「Down On Rodeo」にはジョン・マクヴィーが、「Down On Rodeo」と「Someone's Gotta Change Your Mind」にはミック・フリートウッドが参加していますが、ほとんどの曲はリンジーのアコースティックギターとパーカッションのみで構成されています。そしてこのあたりからリンジーの真骨頂とも言うべきアコギの速弾きアルペジオが堪能できるようになります。特に一曲目の「Not Too Late」。いきなりキレッキレのプレイに圧倒されますね。ドノヴァンのカバー「To Try For The Sun」のギターも最高ですね。僕はこの2曲が特にお気に入りです。フリートウッド・マックのリズム隊が参加した前述の「Down On Rodeo」と「Someone's Gotta Change Your Mind」も好き。ローリング・ストーンズの「I Am Waiting」のカバーや、映画『エリザベスタウン』(キャメロン・クロウ監督、オーランド・ブルーム主演)の挿入曲として使われた「Shut Us Down」も収録されています。(映画もいいですよ) このアルバムは結婚して父親になったことがかなり歌詞に影響を与えてますね。優しさが感じられる楽曲群で、あえて囁くように歌っている曲も見受けられます。


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『Live at the Bass Performance Hall』(2008年)

フリートウッドマック時代の曲から最新曲まで織り交ぜながらのライヴ盤。ギターも曲に合わせて持ち替えながら、見事なプレイを披露しています。生プレイを堪能するにはこの一枚ですね。


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『Gift of Screws』(2008年)

5th。これは前作よりも尖った感じで力強い曲が多いですね。ロック色も強まっています。基本的にはアコースティックだけど、エレキギターが活躍する曲もあり、冒頭の「Great Day」がそれを象徴してますね。トリッキーなアコースティックギターの曲なんだけど、途中でめちゃくちゃカッコいいエレキが入ります。ミュージシャンではない奥さんを共同制作者にするというのは、ジョン・レノンやポール・マッカートニーなど過去にも例はありますが、このアルバムでリンジーは「Did You Miss Me」と「Love Runs Deeper」を妻クレステンと共作しています。そして「Great Day」の共作者には10歳の息子ウィルの名前も。また「Wait For You」と「Gift of Screws」はミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーが、「The Right Place to Fade」はミック・フリートウッドが参加しています。このアルバムで僕が好きなのはなんといっても「Bel Air Rain」ですね。リンジーがこういうアルペジオを弾き出したらもうひれ伏すしかありません。惚れ惚れします。冒頭の「Great Day」も好き。ギターもこの二曲が聴きどころじゃないかと思います。


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『Seeds We Sow』(2011年)

6th. アコギの弾き語り曲とバンドサウンドの曲を織り交ぜていますが、全体的にはアコースティック色の強いアルバムですね。これも存分にギタープレイを堪能できます。ギターはめちゃくちゃ凝ってて複雑だけど、キャッチーなメロディの曲が多いので聴きやすいですね。このアルバムだと僕は「Stars Are Crazy」がたまらなく好きです。なんて美しくカッコいいギターの旋律だろう。速弾きアルペジオここに極まれりといった感じです。ややエコーをかけたボーカルも素晴らしい。リンジーを取り上げるとついギターの話が中心になってしまいますが、僕は彼の歌声も大好きです。同じく速弾きアルペジオが特徴の「Rock Away Blind」もいいですね。「In Our Own Time」「Gone Too Far」も好きです。ラストを飾るのはまたしてもローリング・ストーンズのカバー「She Smiled Sweetly」を弾き語りで。リンジーはストーンズ好きですね。本人曰くブライアン・ジョーンズをリスペクトしているようです。


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『Songs from the Small Machine  : Live in L.A.』(2011年)

ライブ盤2枚目。2011年4月にロサンゼルスで行われたライブ・パフォーマンス。フリートウッド・マック時代の曲から『Seeds We Sow』の曲まで披露されています。これはDVDも出ているので、僕は映像で観ることが多いですね。


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『LINDSEY BUCKINGHAM & CHRISTINE McVIE』(2017年)

名義もタイトルもリンジーとクリスティンの2人となってるんだけど、ミックとジョンも参加しているのでフリートウッド・マック黄金期メンバーの5分の4人が集ってる。というのも、フリートウッド・マックの新作として楽曲を作っていたところスティーヴィー・ニックスがソロツアーを選んだために合流できなくなったらしく…。あー、残念。というわけで、限りなくマックの新作に近い仕上がりになってますね。「In My World」なんてスティーヴィーが歌うために書かれたような曲だもの。ともあれこれは素晴らしいアルバムです。どの曲もすごく聴きやすく、全体的には『Tango in the Night』に近い雰囲気です。「Feel About You」のコーラスが「Big Love」を、「On With The Show」のアレンジが「You and I,PartⅡ」を彷彿とさせます。同作でマックにハマった僕としては感涙もの。僕は特に「Feel About You」「In My World」「Love Is Here to Stay」が好きです。それにしてもこの人たちはアルバム制作となるとなかなか5人揃わない。僕はもう一度黄金期メンバーが揃う日を夢見ています。


『Solo Anthology:The Best of Lindsey Buckingham』(2018年)

2018年リリースのベスト盤。CD3枚組(LP6枚組)53曲というボリューミーな内容で、1、2枚目がソロからのベスト。3枚目がマック時代の曲を含むライブ盤という構成。オリジナルアルバム未収録曲としてサントラから「Holiday Road」「Dancin' Across The USA」「Time Bomb Town」が、新曲として「Hunger」「Ride This Road」が収録されています。(ちなみに現在Apple Musicのリンジーのトップソングは「Holiday Road」なんですよね。世界で最も聴かれてるのはこの曲なんだなあ)このアルバムを聴くことでリンジーの曲が網羅できるようになってるので、ベスト盤でもあり、アンソロジーでもありといった感じですね。


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『LINDSEY BUCKINGHAM』(2021年)

フリートウッドマックの解雇・心臓手術による声帯の損傷・離婚危機などを経て10年ぶりのリリースとなった7枚目のソロ。自らの名前をアルバムタイトルに掲げています。数年前にはレコーディングしていたそうだけれど、諸々の事情でリリースが遅れたようです。まず女性コーラスを起用しているのにハッとしました。特に1曲目「Scream」、2曲目「I Don't Mind」(先行シングル曲)などは、もしコーラスがスティーヴィー・ニックスとクリスティン・マクヴィーだったら完全にフリートウッド・マックじゃないかって感じの曲ですね。3曲目の「On The Wrong Side」は1994年の映画『きっと忘れない』に提供したサントラ曲。6曲目「Time」はポゾ・セコ・シンガーズのカバー曲。僕は4曲目「Swan Song」にシビれます。鳥肌が立つほどカッコいいですね。アウトロのエレキギターも素晴らしい。今回は残念ながら狂気を孕んだような速弾きアルペジオの曲はありませんでしたが、全体的にポップで聴きやすいアルバムです。フリートウッド・マック用に作っていたんじゃないかと思えるような曲も見受けられます。このアルバムを引っ提げてアメリカ30ヶ所のツアーをするそうなので、声帯の方は大丈夫ということでしょうか。リンジーもついに71歳となりました。


『20th Century Lindsey』(2024年)
 
1981年から1992年にリリースされたソロ3枚『Law & Order』『Go Insane』『Out of The Cradle』の2017年リマスター盤にレアトラック集を加えた4枚組BOXセット。この初期3枚のCDは実質廃盤状態でしたが、このセットによって入手できるようになりましたね。レアトラック集に収録されているサントラ曲「Holiday Road」「Dancin' Across The USA」「Time Bomb Town」は『Solo Anthology:The Best of Lindsey Buckingham』(2018年)で、「On The Wrong Side」は『LINDSEY BUCKINGHUM』(2021年)で聴くこともできますが、「Go Insane」「Slow Dancing」「Soul Drifter」の別バージョンやスティーヴィー・ニックスとのデュエット「Twisted」といったレアなトラックも収録されています。


フリートウッド・マックについてはこちらをどうぞ。


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