続・時代劇レヴュー㊷:新・桃太郎侍(2006年)

タイトル:新・桃太郎侍

放送時期:2006年7月~9月(全八回)

放送局など:テレビ朝日

主演(役名):高嶋政宏(桃太郎=桂木新二郎)

原作:山手樹一郎

脚本:奥村俊雄・岡本さとる・いずみ玲


山手樹一郎の時代小説『桃太郎侍』は、「桃太郎」と名乗る浪人が、双子の兄である讃岐丸亀藩主をめぐるお家騒動を解決するストーリーであり、これまでに繰り返し映画化・ドラマ化されている作品である。

古くは長谷川一夫、市川雷蔵と言った映画スターが「桃太郎」を演じ、他にも若き日の里見浩太朗や本郷功次郎、テレビドラマでは四代目尾上菊之助(現・七代目尾上菊五郎)が演じているが、おそらく最も著名なものは1976年~1981年に日本テレビで放送された高橋英樹版「桃太郎侍」であろう。

同作は放送回数が二百回を超え、殺陣の際の数え歌風決め台詞とともに、現在でも高橋英樹の代表作の一つとして紹介されることも多い(これについては「続・時代劇レヴュー㉗」でかつて言及しており、また1992年から1994年にかけて、計三回スペシャル時代劇として高橋英樹主演の「桃太郎侍」がテレビ朝日で放送されている)。

さて、現状で最も新しい「桃太郎侍」の映像化作品が、2006年にテレビ朝日で放送された連続時代劇「新・桃太郎侍」である(タイトルに敢えて「新」の文字を附したのは、それ以前に放送された高橋英樹版との差別化のためであろうか)。

本作は、高嶋政宏が「桃太郎」こと、浪人・桂木新二郎を演じており、双子の兄である丸亀藩主・若木新太郎(原作では「若木新之助」。なお、史実では「若木」と言う大名は存在せず、丸亀藩主は京極家である)も高嶋が二役で演じている。

歴代の「桃太郎侍」は原作の設定に忠実なものから、タイトルを借りているだけで実際にはほとんどオリジナル作品と言えるようなものもあり、例えば、高橋英樹版などは原作とは全く異なるストーリーや設定なのであるが(高橋英樹版では双子の兄は丸亀藩主ではなく、若年寄で将軍家斉の子である「松平備前守」であり、「桃太郎」自身も将軍の落胤と言うことになっていて、殺陣の際には三つ葉葵の紋の入った衣装を着ている)、本作は比較的原作に忠実であり、それぞれのエピソードは独立しているものの、全体を通じて丸亀藩の話題が絡み、最終回で「桃太郎」は丸亀藩のお家騒動を解決している。

本作の特徴としては、「桃太郎」と母(実は乳母であって血縁関係はない)との関係がクローズアップされている点が挙げられ、またこの手の時代劇にしては珍しく、普段の「桃太郎」は仕事もせずに矢場で居候して自堕落な生活を送っており、また女好きで毎回の女性ゲストに一目惚れをしてはふれらていると言う設定であり、このちょっと三枚目のキャラクタに、高嶋が意外とはまっている(もっとも、昨今のバラエティ番組などでの高嶋を見ていると、こちらの方が素のキャラクタには近いのかも知れないが 笑)。

珍しいと言えば、最後の殺陣のシーンで、高嶋は喧嘩剣法のようなあまり「綺麗」でない立ち回りを見せており、彼がこれ以前にも時代劇の経験が豊富であることからするに、おそらく敢えてそうした形で殺陣を行っているのであろうから、(穿ち過ぎかも知れないが)これも差別化の一環なのかも知れない(前述高橋版「桃太郎侍」では、毎回高橋英樹の鮮やかな殺陣が見どころの一つになっている)。

母・千代役の中村玉緒、千代の従僕で実は元盗賊の伊之助役の左とん平、「桃太郎」が普段居候している矢場の主で、「桃太郎」を邪険に扱いながらも密かに慕っているお葉役の富田靖子など、周りを固めるキャストもそれぞれが良い味を出していて、それぞれと高嶋の掛け合いが面白い。

配役について、これまた前述の「珍しい」と言う点に含まれるものであるが、毎回の悪役、特に黒幕的な豪商だったり武家だったりに、従来あまりそうした高位の悪役を演じる機会の少なかった俳優(悪役ではあるが、黒幕ではなく、所謂「鉄砲玉」的な役だったり、途中で口封じにために殺されてしまう役だったりを演じる機会が多いような)が当てられているケースが多い。

例えば、第一回の江藤漢斉や第四回の団時朗など。特に団時朗の場合は、同じ回に「黒幕」常連の西沢利明が出演しているのに、それを差し置いての「黒幕」役である。

あるいは、第三回のエド山口のようなあまり時代劇に出演しない俳優だったり、第五回の石立鉄男のように、(悪役をやらないわけではないが)この手の時代劇ではどちらかと言えば善玉の側の役が多い俳優が「黒幕」的存在を演じているのも、時代劇を見慣れている身としてはちょっと新鮮であった(これについては、2000年以降になると、それ以前のテレビ時代劇で悪役を多く演じていた俳優が相次いで物故したり、知名度が高まった結果次第に悪役を演じなくなっていったりと言った現実的な問題もあるだろうが)。

もう一つ、個人的に感じたのは、現代的なトーンで描かれたエピソードがあったり、他にも総髪で派手な着物を着崩して身につけている「桃太郎」や、矢場の女性達の出で立ちなど、随所で登場するあまり「時代劇っぽくない」描写が多いことである。

これについては評価が難しい所であり、そもそもこの作品の放送されたのが、テレビ時代劇が衰退の一途をたどっていた時期であるため(この一年後には、本作を放送していたテレビ朝日の時代劇レギュラー枠も終了となり、同局から地上波でのレギュラー時代劇枠は消滅している)に、時代劇イメージの刷新と新規ファンの取り込みなどを企図したものかも知れないが、これらの要素はどうも全体的に「浮いた」ものになってしまっていて、放送当時私は本作には、どちらかと言えば「失敗作」と言う印象を持っていた。

ただ、最近改めて全話見直した際には、多少おかしな所があるにせよ、どのエピソードも勧善懲悪と言う従来の時代劇の大きなセオリーは外していないし、前述のような俳優同士の掛け合いは大変ドラマとしては面白いため、現在では2000年以降に放送された作品の中では、1990年代以前のいわば「古き良き」時代劇の雰囲気をよく残した作品としてそれなりに評価している(要するに、個人的に好きなタイプの作品である)。


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