続・時代劇レヴュー㊺:水滸伝(1973年~1974年)

タイトル:水滸伝

放送時期:1973年10月~1974年3月(全二十六回)

放送局など:日本テレビ

主演(役名):中村敦夫(林中=林冲)

原作:施耐庵

脚本:池上金男、宮川一郎、高岩肇、舛田利雄、村野鐵太郎、中川信夫


日本テレビが開局20周年企画として放送した連続時代劇であり、日本では珍しい中国の歴史を題材にした作品である。

タイトルの通り、中国明代の白話小説『水滸伝』をベースにしており、原作同様北宋末期の中国を舞台に、山東の梁山泊に集った百八人の豪傑(作中では百八人が全員登場するわけではない)の活躍を描いた作品である。

基本的な路線は原作通りであるが、原作のエピソードを改編していたり、原作にも原案(本作は古典『水滸伝』とは別に、横山光輝作の漫画版が「原案」としてクレジットされている)にもないドラマオリジナルの設定やエピソードも混じっている。

主人公は百八人のうちの林中(本来の表記は「林冲」であるが、作中では「林中」と表記されている。「冲」の字が日本では馴染みがないせいかも知れないが、作中に登場する署名などでは「林冲」で表記されている場合もある)で、彼は原作でも見せ場が多く、人気の高い人物ではあるが、本作では原作以上に活躍し、すべてのエピソードに関わるキャラクタとなっている。

前述のように『水滸伝』を原作にしているものの、百八人がすべて登場するわけではなく、またキャラクタがかなり多いせいか、各エピソードに登場する人物の頻度にもかなりばらつきがあり、全話に登場するのは林冲と悪玉の高求(本来は「高俅」であるが、本作では「求」で表記されている)のみである。

林中に次いで登場回数が多いのは、本作ではヒロイン的役回りになっている扈三娘で(扈三娘もほぼすべての回に登場している)、他に宋江・史進・花栄・公孫勝などが登場回数が多い(なお、本作では呉用が登場しない代わりに、参謀の役割を公孫勝が一手に担っている)。

中には、登場するものの原作と異なり、梁山泊に加わらないままフェードアウトしてしまう人物もいる(李雲・呼延灼・顧大嫂などで、また楊志は梁山泊の味方になるも、出城的存在の二竜山の首領となって梁山泊には一度も入山していない)。

全編通じての悪玉は、古典『水滸伝』でも奸臣として描かれる高求であるが、本作では原作以上に悪辣な野心家として描かれており、史実とは異なり物語の中盤で宰相の蔡京を殺してその地位を奪い、最終的には皇帝・徽宗の弑逆と王朝の簒奪を企てるようなキャラクタになっている。

また最終話のラストシーンでは、やはり史実と異なって高求は林中に殺され、悪人は一掃されると言う「めでたしめでたし」な展開になっている(原作のように、梁山泊軍が官軍になることもない)。

考証的にもおかしな点が多々あるが(作中で西方の民族として匈奴が登場するなど。契丹と女真の金も別に存在すること、またナレーションからするに本作では匈奴はモンゴルとほぼイコールのようである)、エンタテインメントとしてはよく出来ており、キャストも豪華な顔ぶれで開局20周年を記念した大型企画らしい作品に仕上がっている。

妖術など荒唐無稽な設定も中にはあるが、これは原作にそもそもそうした要素が強いので(と言うか、『西遊記』や『三国志演義」など中国の古典小説では、こうした設定はむしろ定番)、そこは敢えて突っ込まずに気楽に見るのが正解であろう。

首都・開封の街や地方都市などは、おそらくオープンセットを使い回していると思われるが、宮中のシーンは概ね文京区湯島聖堂の大成殿を使用している。

特に高求が部下を謁見する近衛府のシーンで多く使われているが、差し替えが出来なかったのか、「大成殿」と言う扁額がそのままになっていてちょっと笑ってしまう。

なお、日本であまり馴染みのない用語や役職名は、「近衛府」のように本来の宋代の用語ではなく日本の時代劇風の名称に置き換えられている。

例えば、高求は「殿帥府大尉」であるが作中では「近衛軍総司令」、地方の長官などは「○○府の奉行」と呼ばれ、皇帝の尊称は「帝(みかど)」であり、百八人の一人の戴宗(作中では「戴宋」と表記されている)の通り名が原作の「神行太保」ではなく「韋駄天」となっている(ごく稀に「神行太保」と呼ばれるシーンもある)。

中にはこの置き換えの「誤用」もあり、百八人の一人で梁山泊の首領となる宋江は、登場した当初は開封で「刑部の頭」を務めていると言う設定になっているが、刑部の長官は刑部尚書であるから、地位で言えば高求の大尉よりも高位になってしまう(「裁判長」のようなニュアンスを出したかったのであろうか)。

なお、原作では主人公的存在の宋江であるが、本作では初回から林中とは関わるものの出番はそれほど多くなく、梁山泊の首領にも就任しない(晁蓋が戦死した後は、首領は盧俊義になっている)。

他に個人的に気になった点は、物語の随所で登場するオリジナルキャラクタの女性達は、皆本名っぽい名前(林中の妻が「小蘭」、本作オリジナルキャラクタの扈三娘の妹が「燕麗」など)がつけられているのに対し、扈三娘は「扈三娘」のままで呼ばれることで、仕方がないとは言えちょっとちぐはぐな感じである(「三娘」は三番目の娘の意で、扈家は良家と言う設定内なので本名ではなく通称であろう。かつ扈三娘の父は前述の妹を「燕麗」と呼ぶのに対し、扈三娘のことは「三娘」と呼ぶのも、これまた仕方がないとは言え輪をかけてちぐはぐである)。

キャストについては、林中役の中村敦夫、扈三娘役の土田早苗が作中では最も見せ場が多いが、本作で目を引くのは悪玉・高求を演じる佐藤慶の憎々しい演技であろう。

知的な悪役を演じることの多い佐藤だけに、単なる小悪党にならず、悪辣ながらも存在感のある敵役となっている。

梁山泊軍の中では、史進役のあおい輝彦が結構はまっており、また特に後半で見せ場の多い花栄役を、時代劇では悪役を演じることの多い原田大二郎が務めているのは面白い。

呼延灼役の丹波哲郎、晁蓋役の山形勲、盧俊義役の山村聰などは、出演シーンこそ少ないが流石の存在感である。

メインキャラクタの一人である宋江役には、当時まだ無名であった大林丈史が抜擢されているが、後年悪役を演じることの多い大林が、本作では正義感あふれる宋江を力強く演じている。

徽宗皇帝を若かりし頃の水谷豊が演じているのは、今見るとちょっと目を引くが、本作での徽宗は決して暗愚な人物には描かれず、特に終盤で高求の簒奪に対して毅然と立ち向かう凜々しいシーンもある。

他にも、無名時代の小林幸子がちょい役(と言っても、そのエピソード内ではキーパーソンの一人であるが)で出演しているのも面白い。

映画や単発作品ならばともかく、連続ドラマで中国を舞台にした時代劇を制作すると言うのは、当時はもとより現在でも珍しく、その点だけでも一見の価値はある作品である。


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