時代劇レヴュー㉙:長崎犯科帳(1975年)、附・闇を斬る!大江戸犯科帳(1993年)

タイトル:長崎犯科帳

放送時期:1975年4月~9月(全二十六話)

放送局など:日本テレビ

主演(役名):萬屋錦之介(平松忠四郎)

脚本:池田一朗ほか


NHK、民放問わず、架空の人物や剣豪を主人公にした連続テレビ時代劇は、大半が江戸時代を舞台にしており、主人公が活躍する場も、ロードムービーを別にすれば江戸であることが多いが、中には京都や大阪と言った江戸以外の都市を舞台にした作品もある。

そうした「地方」を舞台にした時代劇の中でも、一風変わっているのが今回紹介する「長崎犯科帳」である。

1975年に日本テレビ系列で放送された時代劇であるが、タイトルが示すように江戸時代後期の長崎が舞台であり、珍しいだけでなく頗る面白い作品である。

長崎奉行として江戸から着任した型破りの平松忠四郎と言う旗本が、仲間達とともに長崎に巣食う法で裁けぬ悪党を密かに成敗すると言う、時代劇にはありがちな設定であるが、舞台が長崎なだけに悪党が毎回長崎の特権商人(町年寄)だったり、カルタや唐人屋敷、洋酒など長崎特有の施設や文物が随所に登場したりするなど、普通の時代劇とは一味違った面白さがあった。

メインライターで全体の構成を手掛けたのが池田一朗、すなわち後の歴史作家・隆慶一郎であるが、彼の小説で見られた斬新な設定・ストーリーがここでも垣間見られる。

萬屋錦之介演じる主人公の平松忠四郎は架空の人物であるが、これがキャラクタとしても面白い。

商人達の前では、喜々として賄賂を受け取る俗物で昼行灯ぶりを見せているかと思いきや、実は鋭い洞察力を持つ剣の達人と言う二面性を持っていて、また新しもの好きで悪党を倒すのにピストルを使ったり、奉行所ではチェスをやっていたりしている。

毎回悪徳商人からもらった賄賂を仲間に渡して、悪党を探る資金に使うと言う展開も、考えてみれば合理的なやり方であり、この手の時代劇の主人公が清廉潔白な人物が多いのと違い、オリジナリティがあってこの点も面白い。

そして何と言っても、忠四郎役の萬屋錦之介が非常に存在感を放っていて、往年の時代劇スターの風格十分である。

ヨロキンは色々な役を時代劇で演じているが、個人的にはこの忠四郎が一番好きである。

忠四郎の仲間には、田中邦衛、火野正平と、これまた芸達者で個性的な顔ぶれが揃っていて、この二人の掛け合いも毎回面白く見どころの一つであった。

時代劇でお決まりの最後のチャンバラは、「必殺」シリーズよろしく、手下も皆殺しではなくて、首魁の数人だけをピンポイントで成敗する方式で、私自身はこのパターンはあまり好きじゃないが(単にチャンバラがたくさん見たいだけ)、ヨロキンの殺陣には昔から何となく違和感があるので、これはこれで良いのかも知れない(笑)。

脱線するが、ヨロキンの殺陣は上手い下手ではなくて、(文章で表現しにくいのであるが)例えば同じように時代劇で主役を演じることの多い里見浩太朗や高橋英樹などの殺陣とは手法?が違っていて、彼らを見慣れているどうも妙な違和感があってすっきりしない(人によっては「錦之介は殺陣はあまりうまい方ではない」云々と評する向きもあるみたいだが)。

最後に話がそれたが、面白い時代劇には違いないので、ソフト化もされているのでノーマルな時代劇に見飽きた人におすすめしたい。


所で、忠四郎の裏の顔は作中では「闇奉行」と呼ばれ、その際には忠四郎は白い宗十郎頭巾で登場するが、後年同じ日テレで放送された里見浩太朗主演の時代劇「闇を斬る!大江戸犯科帳」でも、色は黒であるが宗十郎頭巾を被って悪党を斬り捨てる「闇奉行」が主人公であった。

おそらく「長崎犯科帳」をモデルにしているのであろうが、ついでながら紹介すると、こちらは江戸を舞台にした比較的オーソドックスな時代劇である。

「長七郎江戸日記」シリーズなど、長いこと日テレ火曜8時台の時代劇で主役を務めてきた里見浩太朗が最後に主演を担当したのがこの作品であり、里見が演じるのは一色由良之助(架空の人物)と言う大目付で、閑職であることから普段は街場へ出てふらつく遊び人的な旗本なのであるが、その実裏では幕閣の重職など法で裁けない巨悪を「闇奉行」として成敗すると言う役どころである。

この作品のオリジナル設定としては、今一人の主人公と言うべき「表奉行」で、由良之助の幼馴染であるが性格は真逆の北町奉行・小笠原能登守(架空の人物)を由良之助の対極に配し、裏と表の奉行が競い合って事件を解決していくと言う筋立てであり、これがうまく物語のアクセントになっている。

小笠原を演じるのは西郷輝彦で、テレビ時代劇では割合洒脱な人物を演じることの多い西郷が、ここでは杓子定規で堅物の奉行を好演していてそれも面白い。

また、最後のチャンバラの前に悪党が「証拠を見せろ」と由良之助に詰め寄ると、「闇奉行の俺に証拠なんぞはいらねぇんだ」と開き直って啖呵を切るのも、この作品ならではの工夫(?)であろうか。

もう一つ、この作品がこの手の時代劇で珍しいのは主人公が死んでしまうことで、最終回で由良之助は将軍徳川家斉を諌めるために陰腹を切って死んでしまうのであるが、結構当時見ていて衝撃であった記憶がある。

先に「長崎犯科帳」との共通点を指摘したが、「長崎犯科帳」に出演していた火野正平が、「闇を斬る」の方でも由良之助の子分として出演しており、やはり個性的ないい演技を見せているものの、こちらは火野自身の都合か番組側の都合か、中盤で退場してしまうのが惜しい。


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