続・時代劇レヴュー㉟:丹下左膳・飛燕居合斬り(1966年)、藤田まことの丹下左膳(1990年~1994年)

タイトル:①丹下左膳・飛燕居合斬り ②藤田まことの丹下左膳

放送時期:①1966年 ②1990年9月~1994年8月(全4作)

放送局など:①東映 ②テレビ朝日

主演(役名):①中村錦之助(丹下左膳) ②藤田まこと(丹下左膳)

原作:林不忘

脚本:①五社英雄、田坂啓 ②篠崎好


林不忘の小説に登場する隻眼隻腕の異形の剣士・丹下左膳は、大衆小説や時代劇のヒーローとして人気を博し、彼を主人公とする映像作品は戦前から数多く製作された。

最も著名なのは、戦前の大河内傳次郎が演じた左膳であろうが、流石にこれはかなり古い作品と言うこともあって私は未見である。

私が初めてテレビドラマで見た丹下左膳が、1990年から不定期で放送された長編時代劇「藤田まことの丹下左膳」であり、タイトルにある通り、藤田まことが左膳を演じたシリーズである。

その後、2004年に日本テレビで放送された単発の長編時代劇で中村獅童が演じた左膳や、あるいは最近動画サイトで視聴した仲代達矢が演じた左膳(1982年にフジテレビで放送された単発長編時代劇)などを見ているが、藤田まこと以外では、1966年に東映が製作した映画「丹下左膳・飛燕居合斬り」で中村錦之助(後の萬屋錦之介)が演じた左膳が印象に残っている。

そこで、以下はこの二種類の左膳についてレヴューを書いていきたい。

林不忘が執筆した「丹下左膳」の物語の中で最も有名なのが「百万両の壺」のエピソードであり、錦之助版の①はこのエピソードの映像化で、②の第一作目も、だいぶアレンジが加わっているもののベースは「百万両の壺」である(上記の仲代達矢版、中村獅童版も同じく「百万両の壺」のエピソードの映像化であり、かつ仲代版は同じ五社英雄が監督を担当した①のリメイク版である)。

どちらの左膳も、多少の違いはあるにせよ、東北のとある藩の藩士であったが、藩の内紛に巻き込まれる中で脱藩した上に追手の刺客によって片腕と片目を失った設定であり、これが原因で権力に対しては反抗的なキャラクタになっている。

もっとも、両者の左膳はキャラクタがだいぶ異なっており、錦之助の左膳が自分の人生を狂わせた武家社会への憎悪を前面に出しているのに対し、藤田まことの左膳ではそうした描写はほとんどなく(そもそも脱藩の過去がはっきりと明かされるのは第三作になってからであり、第二作でかつての上司の家老から依頼があった際にも、報酬に惹かれたとは言え、過去の恨みを感じさせることなくあっさりと引き受けている)、錦之助を「陰」とすれば、藤田まことの左膳は「陽」と言える。

どちらのキャラクタもそれはそれで魅力的であるが、藤田まことの方がより大衆受けするキャラクタになっているように思える(ちなみに、藤田まことは大河内傳次郎の左膳を意識していたらしく、「姓は丹下、名は左膳」と名乗る際にも、傳次郎の口調をモノマネして「姓」を「しぇい」、「左膳」を「しゃぜん」と意図的に発音している)。

左膳以外の登場人物では、彼の剣のライヴァルである柳生源三郎がとりわけ印象的で、①では木村功、②では田村亮がそれぞれ魅力たっぷりに源三郎を演じているが、①の源三郎が生真面目で堅物なのに対し、②の源三郎は左膳以上にニヒルで、どことなく気障な感じで描かれている(中村獅童版の源三郎もやはり堅物に描かれていたので、①の方が原作のイメージに近いのかも知れない)。

私は田村亮の源三郎が、彼が過去に演じた役の中でも一際好きな役であり、主役である左膳以上に格好良いキャラクタとして強く印象に残っている。

他にも、②で橋爪功が演じる大岡越前守は、ひょうひょうとしたキャラクタで、大岡忠相の描き方としては珍しく、身分を隠して市井に出る際にも、浪人ではなく「ただの忠吉」と称する「遠山の金さん」ばりの遊び人に扮している。

遊び心あふれるキャスティングとしては、②ではぼんちおさむ・島田順司・大場順など、同じテレビ朝日で放送された藤田まことの代表作の一つ「はぐれ刑事純情派」で藤田と共演した面々が脇役として登場しており(ぼんちと大場は同一の役であるが、島田は毎回異なる役で登場している)、左膳の情婦である櫛巻きお藤を演じるのも、やはり「はぐれ刑事」で藤田と長年共演経験のある眞野あずさである(第二作のみは眞野の都合か、佳那晃子がお藤役となっている)。

また第三作では、賄賂を受け取らない同心を見た左膳が、「俺の知っている中村主水なんて言う同心は、賄賂を取り放題」云々と言う台詞があり、これまた藤田の代表作である「必殺仕事人」をパロディにしたものである(後、「遊び心」とは違うが、①では公開と同じ年に錦之助と再婚した淡路恵子が、お藤を演じている)。

ともあれ、①、②ともに「古き良き」と言う形容がぴったり当てはまるような痛快時代劇で、今見ても古臭さを感じさせず、すっきりと楽しめる作品であり、「丹下左膳」がこれまで数多く映像化されてきた理由もそのあたりにあるのかも知れない。


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