時代劇レヴュー㉗:眠狂四郎円月殺法、眠狂四郎無頼控(1982年~1983年)

タイトル:①眠狂四郎円月殺法 ②眠狂四郎無頼控

放送時期:①1982年11月~1983年3月(全19回) 

     ②1983年4月~8月(全22回)

放送局など:テレビ東京

主演(役名):片岡孝夫=現・十五代目片岡仁左衛門(眠狂四郎)

脚本:津田幸於、和久田正明、星田清司ほか


以前に市川雷蔵主演の大映映画「眠狂四郎シリーズ」の紹介をしたことがあったが(「時代劇レヴュー⑧」参照)、今回はテレビドラマ版の『眠狂四郎』映像化作品の中からテレビ東京にて放送された片岡孝夫主演版を紹介したい。

柴田錬三郎の代表作の一つである『眠狂四郎』シリーズは、最も著名と言うべき大映の雷蔵版映画の他にも数多く映像化され、鶴田浩二、松方弘樹、平幹二朗、田村正和などの俳優が狂四郎を演じた。

この中で2020年現在最も多くの年月に渡って狂四郎を演じた俳優は田村正和で(しかもフジテレビの連続ドラマとテレビ朝日のスペシャルドラマの二パターンある)、原作者の柴錬自身も田村正和版を非常に気に入っていたらしいが、個人的にはこのテレ東の片岡孝夫版が雷蔵に次いで好きな狂四郎である(ちなみに、回数だけで言うと歴代狂四郎では、片岡孝夫が計四十一回で最も多く、前述田村正和はスペシャルドラマ版を合わせて三十二回である)。

私は原作は未読なのであるが、たぶん原作のニヒルなイメージからすると、この「片岡狂四郎」は「無頼」を自称しながらかなり人間的には「良い人」に描かれているのであるが、絵に描いたような美男子である片岡が演じる狂四郎には独特の風格と魅力があり、雷蔵と甲乙つけ難い。

この片岡孝夫版は計二シリーズ作られたが、ほとんど間をあけずに放送されており、設定やキャストも共通しているため実質的には一つの作品として扱うべきなのかも知れないが、番組タイトルが異なるため、ここでは一応番号を振って区別しておく。

第一シーズンに当たる①は、柴錬の原作のうち『眠狂四郎孤剣東海道五十三次』をベースにしており、薩摩藩の倒幕の陰謀を防ぐために、老中水野忠邦の用人で旧知の武部仙十郎の依頼を受けた狂四郎が、途中薩摩の刺客と戦いながら東海道を西に京を目指すと言うもので、②は特定の原作はなくてエピソードも特に相互のつながりはなく、テレビ時代劇でよく見られる一話完結の物語になっている。

ドラマとしては純粋に面白い作品で、他の「狂四郎」作品と同様ストーリー的にはさほどひねりもなく展開もかなり荒唐無稽ではあるが、片岡演じる狂四郎の魅力もあって難しいことを考えずにすっきり見られる作りになっている(冷静に見ると「おいおい」と突っ込みたくなるような箇所も多いが、そこはこの手の古典的時代劇を見る上でのある種の「醍醐味」であって、深く考えずに楽しんだ方が正解であろう)。

もう一つ、柴錬作品にはつきもののエロチシズム要素も多分に含まれており、エピソードによってはかなりどぎつい描写もあって今では地上波では放送出来ないと思われるシーンを、「日活ロマンポルノ」の黄金期を支えた女優達を随所に配して魅せていて、この点もある意味「古き良き」時代劇なのかも知れない(とは言え、家族で視聴するにはふさわしくない作品に違いない 笑)。

狂四郎以外で個人的に好きなキャラクタが、狂四郎の子分的存在の金八で、この作品で金八役を演じている火野正平は、私が見た金八の中でも抜群にうまい。

火野正平の十八番と言うべき調子が良くてコメディリリーフ的な役を軽妙に演じ、どこまでが脚本でどこまでがアドリブなんだろうかと思ってしまうような台詞を毎回随所で入れてきて、ハードな展開の話が多いこの作品において、息抜きが出来る良いアクセントになっている。

ゲスト女優陣の中では、①②双方に登場する(ただし全く別の役)佐藤万理が印象的で、儚さのある美人の彼女は、眠狂シリーズでは定番的な薄幸の女性役によくはまっている(この作品に限らず、佐藤万理は1970年代~1990年代にかけて、多くのテレビ時代劇に出演しており、主役級やヒロインなどを演じる機会はほとんどないものの、武家の娘を演じても町娘を演じても、品の良い存在感があり、個人的には非常に好きな女優である)。

最初に作られた「円月殺法」の方は、まだ手探りだったのか序盤でやや作りの雑さが目につく所があるが、当時のテレ東にしてはかなり頑張って作っている時代劇で、狂四郎ファンなら一見の価値ある作品と言えよう。

なお、2020年現在、①②ともにDVD化されており視聴は容易である。


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