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世界史の教科書を最初から最後まで 1.2.6 民主政への歩み

ギリシア人が地中海各地に進出し、商売がさかんになるにつれ、「平民」の中にも農業ビジネスで成功する人が現れるようになった。

豊かになった平民は武器を買い、ポリスを守る兵隊として活躍するようになる。
鎧(よろい)や盾、槍などを購入することができれば、重装歩兵部隊として活躍することができたのだ。

「国のために命をかけて戦っているのだから、俺たちにも参政権をよこせ!」

そりゃあ、こういう主張は当然出てくるよね。

例えばアテネというポリスでは、商売で成功した平民によって早くから民主政を求める声が上がった。

しかし、当初アテネの政治の実権を握っていたのは、家柄の良い貴族たち。
彼らは自分の都合のいいように、ポリスのルールを内緒で決めていた。

「それじゃあフェアじゃない。平民にもルールの内容を教えてくれよ!」

―という声に答え、ルールを平民にも分かる形で文章化したのは、のちの時代のアリストテレスによるとドラコンという貴族。だいたい前7世紀(今から2600年ほど前)のことだ。

さらに前6世紀初めにはソロンという貴族が、貴族と平民の間に入って、対立を調停。

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当時ポリスの最高指導者の一人であった彼は、どれだけ税を払っているかによって、市民を4つのランクに振り分けた。結果として政治に参加できる市民の数は増えたよ。

※アテネの最高指導者はアルコンといって、複数人が役職を分担していた。彼らを選ぶことができるのは、アルコン経験者による会議(アレオパゴス会議)のメンバーに限られていた。そもそもアルコンには富裕な貴族しかなれなかったから、商売で成功して国防でも活躍するようになっていた富裕な市民の不満が溜まっていったわけなんだ。ソロンはアルコンを、上2つのランクの市民が選ぶ形に改革したんだよ。


また、利益を追求する風潮が行き過ぎ、借金を返せなくなって”奴隷”身分に落ちてしまった市民を救済する改革も実行し、ポリスの団結を維持しようとしたんだ。


しかしその後のアテネを待っていたのは、中小規模の農地を持つ市民(中小農民)を味方に付けた独裁政治家(僭主(せんしゅ)と呼ばれる)による支配だった。

前6世紀後半のペイシストラトスという僭主は、ソロンをはじめとする貴族を弾圧し、中小農民のことをよく守った。だからある意味その後のアテネの政治の主人公が「中小農民」に移っていくきっかけをつくったともいえる。


しかし、独裁者が現れるのはよくないと、前508年(今から2500年ほど前)に”僭主の出現防止”の政治改革をおこなったのが、クレイステネスという政治家だ。

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彼は、僭主の出現防止のために「人気がありすぎる政治家」を投票によって追い出すシステムを導入した。

資料 クレイステネスの改革
「今や大衆の領袖りょうしゅうとなった彼は僭主せんしゅの倒れたのち4年目、すなわちイサゴラスが長官アルコンだった年に、まず全人民を4部族の代りに10の部族に分かった……。次に在来の400人の代りに500にんの評議会ブーレーを設け、各部族から50人ずつ出させた。在来は(部族ごとに)100人だった。

また全国土を各々いくつかのデーモスからなる30の部分に分かち、10は中心市とその周囲から、10は海岸から、10は内域からなるようにしてこれをトリットュスと呼び、各部族がすべての3地域にあずかり得るように各部族に3つのトリットュスを抽選で帰属せしめた。そして各区に住んでいた人たちを各区民としたが、これは新たに市民となった人たちを父称で区別することなく、所属区によって公称させんがためであった…。

【演習】この資料において、帰属的な血統意識を排除しようとする意図が読み取れる部分を、マークしてみよう。

(出典:アリストテレス(村上堅太郎・訳)『アテナイ人の国制』、江上波夫監修『新訳 世界史史料・名言集』山川出版社、1975年、12頁)


当時の票は紙ではなく、そこらへんに転がっている陶器のカケラ。そこに「僭主になりそうなやつ」の名前を書き、投票する。
いわば”逆”人気投票だね。
6000票以上の陶器の破片(オストラコン)集まると、その人は10年間の国外追放処分を受けるこのシステムを、陶片追放(とうへんついほう、オストラキスモス)という。

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さらに、これまでアテネに根強く残っていた血のつながりに基づく4つの部族をバラバラにして、単純に地域別に区割りをした。
まるで現代の選挙の区割りみたいだね。
地域別の区のことをデーモスと呼ぶ。

デーモスは人々という意味でもある。

僭主ではなくデーモスに権力(クラティア)を与えようという考え方は、のちに「デーモス」+「クラティア」=「デモクラティア」と呼ばれるようになるよ。
これが英語のデモクラシー(democracy)の語源なわけだ。

このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊