世界史のまとめ × SDGs 第18回 新動力の発明と大分岐(1760年~1815年)
SDGs(エスディージーズ)とは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
言い換えれば「2018年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
17の目標の詳細はこちら。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。
ーこの時代は、ユーラシア大陸の東(ヨーロッパ)と西(アジア)で、経済の成長に大きな「差」が始まる時代だ(注:大分岐)。
グラフはAngus Maddisonの "Contours of the World Economy 1-2030 AD: Essays in Macro-Economic History"による(wikimedia commonsより)
この「差」がなぜ起こったのかについては議論がつづいているけど、この時期に、ヨーロッパとアジアの経済成長を分かつターニングポイントがあったことには間違いないようだ。
この時期におきたあるイノベーションが、その後の人類にどのような影響を与え、人類が直面した問題に対してどのように対処していったのかを見ていくことにしよう。
人類は、エネルギーをどのようにして多く得るようになっていったのだろうか?
目標 7.1 2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。
目標 7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。
目標 7.3 2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。
目標 7.a 2030年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率及び先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究及び技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。
―この時代に、ついにヨーロッパがアジアに対して「大逆転」するきっかけとなる出来事が起きるよ。
あれ、今まではどちらの地域のほうが力は上だったんでしたっけ?
―経済的にも軍事的にも、アジアのほうが断然上だった。
ヨーロッパがアフリカやアメリカを経由してアジアに向かったのも、「大航海」(Age of Discovery)というカッコいい名前が付いているものの、実際には豊かなアジアにある物欲しさに目指したんだったものね。
アジア各地でつくられるハイクオリティな物(注:インドのキャラコなど)は、とてもヨーロッパでは作ることができなかったんだ。
アンガス・マディソンによる紀元以降のGDPの変遷(wikimedia commonsより)。1820~1870年の間に薄い青(西欧=W Europe)と赤(中国)の分岐(divergence)がみえる。
たしかに「逆転」していますね。でもどうして。
―さまざまな理由が考えられている。
ヨーロッパは、そもそも「ふりだし」からアジアやアメリカ、オセアニアよりも、人間の利用できる動物・植物が分布していた点などで有利だったという考え(注:ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』)。
技術、ヨーロッパのほうが中国よりも政治的に分裂していたこと(Joel Mokyr)、生活水準や賃金、ヨーロッパによるアメリカへの進出をはじめとする植民地化(Paul Bairoch)、文化(Max Weber)など、さまざまな要素が原因や背景として挙げられてきた。
―でも、ここで「決定的要因」として注目したいのは、エネルギーの利用法の革命的な発明だ。
…というと?
―人や馬を使わなくても、その数十倍ものパワーを出せるテクノロジーの開発だ。
サルの場合、力(ちから)を出す仕事をするには、自分の体を使うしかないよね。
その場にある木とか石を使うっていっても、結局は自分の体を使うしかない。
人類もはじめはサルと同じだった。
何をするにも、力を出すには自分の体を使うしかない。
それがイヤなら、誰か別の人を使うしかない。
そこで利用されたのが「奴隷」だ。
敵などを奴隷として、力を出してもらう道具として使ったわけだ。
家畜も力を出す道具として使えませんかね?
―その通り。
家畜なら、たとえば馬1頭で奴隷7人分のパワーが出せるといわれている。
ウシを使って犂(すき)で土地を耕しているところ。
ウマを使って有輪犂で土地を耕しているところ。
人力では大変だ(ペルーの踏み鋤(ふみすき))
でも、人にしろ馬にしろ、体力には限界がありますよね。
―そう。消費カロリーには限界があるし、ムラもあるよね。
成人男性だったら1日にこれぐらい食べなきゃいけないという量が決まっているけど、さすがにそれを何十倍も超える量のご飯を食べるわけにもいかないよね(笑)
馬だって同じ。
エサを食べる量には限界がある。
どうすれば人も馬も使わずに、仕事をする力を手に入れることができるんでしょうか?
―そう、それ。
まさにそんなことができれば夢のようだね。
その夢のようなことが、この時代に実現したわけだ。
燃料は石炭。
石炭を燃やすことで、その熱であたためられたお湯から湯気(ゆげ)が出て、その湯気がふくらむ力を利用して機械を動かせることがわかったんだ!
その力はなんと馬50頭分!
改良が重ねられ、最終的には馬2000頭分にまでパワーアップした!
馬2000頭! そんなに力があったら、なんでもできそうですね。
―たとえば荷物をたくさん積んだ箱に車輪を付け、鉄でできたレールの上をその力で走らせれば「鉄道」になるよね。
その箱を海に浮かべてスクリューを回せば、帆(ほ)がなくても高速で巨大な船を動かすことだってできる(注:蒸気船)。
今まで動物の力や風の力に頼っていた人間の活動範囲が、劇的に変化することになるんだ(注:交通革命)。
さらに機械なら、燃料さえあればいつまで動いても疲れない。
同じようなクオリティの商品を大量につくることだって可能になる。
それじゃあ「職人技」の意味がなくなってしまいますね。
―だよね。
インドから輸入されていた高品質の綿織物(綿の糸で編んだ布)も、機械をつかえばマネできる。
そもそもこの新技術の発明も、アジアからの輸入に頼っていた製品を、自分の国でつくりたい!(注:輸入代替工業)という願いから生まれたんだよ。
なるほど。こんなことになってしまえば、イギリスはどんどん経済的に発展していくのでは。
―気候的に大変だったこともあり、「逆境を乗り越える力」が大きな技術的飛躍につながったと見ることもできる。
この時期のはじめのころのヨーロッパの寒さはとことん厳しかったんだ。だからこそイギリスは活路をヨーロッパの外側に見出していく。
量に物がつくれるようになったということは、原材料もその分たくさん調達しなければならないしね。
それに、蒸気機関が導入されていっても、良いことばかりとは限らない。
人間が機械のペースに合わせて働くようになれば、人間がそのペースについていけなくなってしまう。機械は疲れないからね。
機械や材料を導入するのにもお金がかかるから、経営者は「利益」のことを一番に考えるあまり、働く人をコキ使いがちだ。
昔のように、同じ業種の人が集まって協力し合ってお互いつぶれない程度に「なあなあ」で商売をする時代は終わったわけですね。
ーその通り。
「どうすればもうかるか?」を競って考える実力本位の時代になっているわけだ。
起業家は、そこに知恵をしぼって考える。
貧しい田舎出身でも、アイディアひとつで成功をおさめることも可能だ。
彼らにとってジャマだったのは、古臭い身分制度だ。
生まれたときから「身分」が決まっていたら、どんなに実力があっても這(は)い上がることはできないという古臭い身分制度。
このような「古い制度を変えよう!」という運動が、政治や経済の世界で盛んになっていくのもこの時代だ。
「古臭い制度」イコール、「王様」や「教会」ですね?
―ヨーロッパではそういうことになるね。
王様や教会は、自分たちを頂点にして国じゅうに家来を従え、広い土地を所有していた。
土地がこういう古臭い人たちにの持ち物になっている限り、そこで自由にビジネスすることはできない。
そこで新しく「ものづくり」でのし上がっていった起業家たちは、やがて政治活動を始め、世の中のしくみを変えていこうとするよ。
成功したんですか?
―それが、イギリスではだいたいうまくいき、フランスでは大混乱におちいる。なんでもそうだけど、「もうけ話」というのは一番初めに成功した人だけが大きな利益を得るものだ。イギリスはその後、世界で一番リッチな国としてトップランナーとなっていくよ。
アメリカに移り住んだヨーロッパ人は、ほぼゼロから、新しい時代に合わせた国を建設することに成功する。
それに刺激を受けて、カリブ海の島のひとつ(ハイチというところ。⇒前の時代の記事を参照(1650年~1760年の世界))や、南アメリカでも、「自由」を求める運動が盛り上がるよ。
人間は文明が始まって以来ずっと「進歩」してきた。
今もその「進歩」の途中だ。
だから、古臭い制度は倒されるべきで、新しい世の中の仕組みへと「進歩」するべきだ、という考え方がヨーロッパから広まっていったわけだ。
良い考え方なのでは?
―なんでも「人間の思い通りに変えていこう」という考え方は、ややもすれば、人間の思い通りに「自然」を作り変えていこうという考え方になりがちだ。科学が技術に応用されれば、効率よく自然を改造することだって可能になる。
例えばどういうことですか?
―燃料がたくさん欲しい!と思えば、山を思い切り掘り返して大量の石炭を獲得することも可能になるよね。
で、その石炭を燃やせば、大気中の二酸化炭素濃度は上昇する。
こうして人類は、地球上で唯一、地球の自然を大規模に作り変えてしまう力を手にした動物になってしまったわけなんだ。
その意味で、この時代は「非常に大きな画期」といえる。
かなり大きな変化ですね…。
ヨーロッパは絶好調ですが、遅れをとったアジアはもうダメなんでしょうか?
―そんなことはない。
当時はまだまだアジアのほうが、ヨーロッパに比べて稼ぎははるかに大きかった。アジアの強みは人口が多いこと。市場規模も大きい。
次の時代にかけて、ヨーロッパ諸国はさらに科学技術を発達させて経済を成長させ、さらにはアジアやアフリカへの進出を強めていくことになる。
すると、これまでヨーロッパを上回っていたアジアは、一転して世界経済に占めるシェアを縮小させていくんだ。
当時、「あたらしい技術」をアドバンテージに経済のトップランナーを走っていたのは、特に植民地にしていたインドから富を吸い上げて成長していたイギリス。
この時期には北アメリカの植民地が独立(注:アメリカ独立戦争)するけれど、強力な海軍力を世界各地に物流ネットワークを張り巡らせていくよ。
イギリスに対抗しようとしたフランスでは、政情不安が続く(注:フランス革命)けど、この時期の終わりには強力なリーダーシップを発揮した軍人皇帝(注:ナポレオン)がフランスをまとめ上げ、さらにヨーロッパ征服を目指してイギリス上陸も目論んだ。
しかし、結局は諸国の結束で滅亡し、フランスはまた王様の支配する国に「逆戻り」することになったよ(注:復古王政)。
また、この時期にはロシアがユーラシア大陸の東端にまで領土を拡大し、北アメリカ大陸にまで到達(注:アラスカ)。にわかに盛んになっていた毛皮交易をめぐるビジネスの争いが活発化し、日本近海での外国船の出没率がアップしている(注:フェートン号事件、ゴローニン事件)。
それでもまだ日本(注:いわゆる「鎖国」)、中国(注:カントンシステム)、朝鮮、沖縄の琉球王国は「出入国管理」をキッチリする体制は崩していないけどね。
なんだか一気に世界の結びつきが深まってますね。
―そうだね。
ヨーロッパ諸国の進出に対し、まだまだアジアやアフリカでは独自の政権が独自の地域の「まとまり」をキープしている状態だ。
それが今後、地球の各地でどんな状況へと突入していくことになるかは、次の時代をみていくことにしよう。
このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊