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世界目線で考える。 新型コロナ対応にみるドイツのクライシス・マネジメント編

図1

Robert Koch Institut
https://www.rki.de/DE/Home/homepage_node.html

4月15日、ドイツのメルケル首相は、「もろい途中の勝利」と表現したメッセージを国民に発し、封じ込めはまだ達成できていないと強調しつつ、小・中規模の店舗の再開などが柱となる規制導入後初めての緩和措置に踏み切ることを表明した。

ドイツでは、大手企業を中心に、今年の1月下旬からCOVID-19の拡大を想定した準備が開始され、2月にはオンラインでの在宅勤務のテストを実施し、3月上旬には地域に格差はあるもののロックダウンへの対応や医療体制もほぼ整っていたといわれている。発表された緊急経済措置は約90兆円規模に及び、その内訳は、企業の資金繰り支援、雇用、所得などの対策が中心となっている。

ドイツではもともと組合の力が強い。すでに、残業時間の買い取りや有給として清算する仕組みがあった。それが、今日では「労働時間口座制度」となり、銀行口座のように貯蓄できる制度となっている。

加えて、企業が景気の悪化で従業員の総合時間を短縮しなければならない場合、政府が減少賃金の60%を補填する「操業短縮手当制度」の制度がある。雇用者と被雇用者を両面で支援するこの二つの制度が確立され、これらがポスト・リーマンショック時代の迅速な経済社会の復興に貢献した。

ドイツは、こうした過去のクライシス・マネジメントで得た経験を、今回の新型コロナ・クライシス・マネジメントとして迅速に取り入れている。

その背景には、戦後のドイツの復興の歴史が大きく関わっている。80年代に社会主義圏から発生した「連帯」(Solidarität)の影響で、1990年の東西ドイツ統一後、全ての国民が所得税の5.5%を連帯税(Solidaritätszuschlag)として収めることが義務付けられている。

この税金は、社会主義時代に荒廃した旧東ドイツの道路や住宅などのインフラ修復整備、旧国営企業が閉鎖により、失業した者、早期年金生活に入った者への年金給付などに充てられ、40年間にわたる社会主義支配下で、発展途上となった旧東ドイツ地域への経済復興支援を一貫して行い、東西の経済社会の格差の是正を目的として使われてきた。

過去25年間で、東西ドイツ統一復興支援として、約280兆円以上の拠出を行ったとの専門機関の統計がある。ドイツは、こうしたこれまでの経験から、迅速かつ効果的な新型コロナ・クライシス対策を実施している。

ドイツでは中小企業が全企業の99.5%、総売上高の約35%を占め、約60%の雇用を創出している。しかし、緊急パッケージで打ち出されたつなぎ融資の支援策では、政府保証が90%に設定されるなど、実質的に中小企業が利用できないプログラムだとして批判が出ている。

これを受けて、連邦政府は4月6日、ドイツ復興金融公庫(KfW)による新たに中小企業向け融資プログラム(KfW-Schnellkredit)を発表。対象は2019年1月1日以前に営業活動を始めた従業員11~250人の企業となる。

1社当たりの与信限度額は2019年の3カ月分の売上高を上限とし、従業員50人超の企業は最大80万ユーロ、従業員50人以下の企業は最大50万ユーロ。利子は3%、政府保証100%、与信期間は10年と定められ、信用リスク評価は行わずに融資を受けられる。調達した資金は、資材・材料調達と運営コストに利用できるとしている。

現在ドイツでは、一定の条件を満たす中小企業や個人事業主に対して、最大約180万円(3カ月間)の助成金が給付されている他、ドイツ最大のGDPを有するNRW州では、250億ユーロ規模の支援が決定され、小規模企業に対して9,000ユーロ(従業員5人まで)、1万5,000ユーロ(従業員10人まで)、2万5,000ユーロ(従業員50人まで)、アーティストやフリーランサーなどに対して2,000ユーロの即時援助などが実施されている。

他方、日本でもドイツの文化芸術に対する迅速な支援が話題に。モニカ・グリュッタース文化相の「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在だ」との訴えには、ドイツ国内のみならず、国境を越えて多くの共感を呼んだ。次回は、ドイツの文化芸術支援について考察を行いたい。

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント
1989年 外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。

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