【レビュー】「サッカー」とは何か/林舞輝 著
サッカーとはなにかを2大トレーニング理論から紐解く
JFLに所属する奈良クラブで監督を務める林舞輝さんの著書、『「サッカー」とは何か』を読んだ。サッカーメディアfootballistaを日頃から読んでいる人であれば、彼の名前は聴き馴染みがあると思う。イギリスやポルトガルでサッカーの指導や戦術的ピリオダイゼーションをはじめとする理論を学び、25歳にしてJFLとはいえ全国リーグの監督として注目を集めている。さらに、これまでの学びや日々の実践について積極的に情報発信する姿勢も異色である。
なにごとも「観察」が最初の一歩
本書では、戦術的ピリオダイゼーションと構造化トレーニングという2つの理論について、その成り立ちや概要について可能な限りかみ砕いて解説されている。しかしそれでも決して平易な内容とは言いがたく、(私を含めて)難しさを感じた人は多いのではないだろうか。
なるべく実用的にと筆者も記しているが、やはり多くの指導者にとってはよほどこの領域に前提知識を持っていない限り「理論書」という位置づけになってしまうだろう。それでも各章の終わりに内容を図示したり、具体例をなるべく入れることなどによって読者の理解を助けようとする工夫が感じられた。
そんな中私が感じた一つのポイントは「観察」だった。これはいずれに理論においても当てはまる。まず「サッカーとはどんなスポーツなのか」ということをきちんと観察されていることが非常に重要だ。陸上競技でもなく、バスケでもなく、野球でもなく、サッカーなのだ。
(他のスポーツではなく)サッカーというスポーツでは
・どんな判断が求められるのか?
・どんな運動能力が必要とされるのか?
・どんな負荷がかかるのか?
といったことが観察されていることが非常に重要な要素となる。
例えば本書では、構造化トレーニングの創始者であるパコ・セイルーロがもともと陸上を指導しており、サッカーに引き抜かれた形となるのだが、サッカーの練習風景を見て驚いた様子が描写されている。彼が見た練習の様子はまるで陸上のようなラダーやスプリントだったのである。陸上とサッカーでは競技性質が大きく異なるのに、だ。ここが出発点となり、その後のキャリアで構造化トレーニングを構築していったわけであるが、他のスポーツではないサッカーというスポーツについて十分な観察があって初めて適切な理解と理論の構築に結びついていることを感じた。
これはゲームモデルの構築過程でも同様である。本書ではゲームモデルを構成する要素を6つに分けて紹介している。指導者が描く理想のサッカー(プレーイング・アイディア)はまだしも、どのような選手がいるのか、またクラブや国はどのような文化・歴史を持つのかという点については十分な観察が必要とされる。決してサッカーに限る話ではないのだが、どの理論を中心においたとしても、十分な観察がものごとの出発点になることを再認識した。
まずは理論についての理解を整理する一歩として
冒頭でも述べた通り、決して平易な内容ではないため誰でも気軽に手に取ってみることを勧めるというわけではないが、
・サッカーというスポーツに対する理解を深めたい人
・漠然と日々の指導をしていることに不安を抱えていて自分の理解を見直したい人
などはぜひ手にとってみてほしいと思う書籍であった。
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