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「危機回避の習性」を自覚すると行動を変えることができる

前回の記事の最後に「人はそもそも失敗したくないと考える習性を持っています」という話をしました。そしてそれを自覚すると行動を変えることができるようになります。今回はその話を詳しくお伝えしたいと思います。

まず初めにこちらの問いを考えてみてください。

(問)
あなたはコイン投げのギャンブルに誘われました。
・裏が出たら、あなたは100ドル払います
・表が出たら、あなたは150ドルもらえます
このギャンブルは魅力的ですか? あなたはやりますか?

この問いは、プリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授の著書『ファスト&スロー ~あなたの意思はどのように決まるか?~』から引用したものです(リンクは上巻ですが引用個所は下巻です)。確率は2分の1、損する金額より得する金額の方が1.5倍です。皆さんならやるでしょうか?
多くの人がこのギャンブルを嫌がると本には書かれています。私もやらないと思います。もちろん個人差はありますが「損失は利得より強く感じられる」ことがカーネマン教授の研究で結論付けられています。

このように人は何かを失うなどネガティブなことを強く感じる習性があります。ここで岩手医科大学の駒野宏人教授が著書『「生きるスキル」に役立つ脳科学』に書かれている「生存に必要な3つのモジュール」という話を紹介したいと思います。

1-4_生存に必要な3つのモジュール

ここにある例えは狩猟採集生活をしていたころの私たちのご先祖様をイメージしたものです。危機回避モジュールがあることで森の中へ入るときも警戒してオオカミに襲われないようにしていました。接近モジュールがあることで未開の地へ足を踏み入れるなど新しいことにチャレンジしていました。そして絆モジュールがあることで仲間と協働して例えば自分たちより体の大きいマンモスを狩るなど一人ではできないことを実現していました。生きていくために人はこの3つのモジュールを備えています。

モジュールは3つありますが、狩猟採集生活で生きていく中で特に重要となったのが1つ目の「危機回避モジュール」です。私たちが現在この世で生きているのはご先祖様が危機を回避して生き延びてきたからです。そして実は狩猟採取生活をしていた数万年前のご先祖様と私たちの遺伝子はほとんど変化していないと駒野教授の本に書かれています。私たちは危機回避能力の高い遺伝子を持っている、つまり危機回避のスペシャリストなのです。また危機回避に役立つのがネガティブな感情です。不安や恐れを感じて危険なことを避けるとか、怒りの感情で闘争心を高めたりしています。最初に「人はそもそも失敗したくないと考える習性を持っています」とお伝えしたのも私たちが危機回避のスペシャリストだからです。

ただし、狩猟採取生活のころと比べてはるかに私たちが暮らす社会は安全になりました。もちろん災害や交通事故、今では新コロナウイルスの広まりもそうですが、そのような時に危機回避能力はとても役に立ちます。一方で必要以上に危機回避をしてしまうことがあります。ギャンブルをお勧めするわけではありませんが、例えば「経験したことがない仕事の担当を上司から打診された時に恐怖心に圧倒されて反射的に断ってしまう」「とても興味のある勉強会が開催されるけど参加者に一人も知り合いがいないことが不安で参加を辞めてしまう」「チームのみんなとは違う意見を持っているけどそれを言うことで周りから空気が読めないやつだと思われるのが怖く言わずにいる」など必要以上に危機回避能力を発動してしまい、チームに貢献するチャンス、新しい人と出会うチャンス、自分を成長させるチャンスを逃してしまう人をよく見かけます。

皆さんは危機回避能力を必要以上に発動していないでしょうか? 主観的な方法になりますが、皆さんの過去を振り返って「今考えてみると、あの時チャレンジしなかったことはもったいなかったなぁ」といった経験が多い人は該当するかもしれません。

今回この話を紹介したのは「人はそもそも失敗したくないと考える習性を持っている」と自覚していることが役に立つからです。大きなチャンスやチャレンジを前に不安や恐怖を感じて反射的に逃げようと思ったとき「いやいやちょっと待て! 私はそもそも危機回避能力が高いのだからもしかしたら必要以上に怖がっているのかもしれない。ちょっと深呼吸して落ち着いて考えてみよう」と、自覚していることで冷静に行動を選択できるようになれます

そうはいっても実際その状況になった時に冷静に考えられるように自分を変えるには実践法があった方が取り組みやすいと思われる方もいらっしゃると思います。そこで次回は、冷静に行動を選択することを支援するツールをご紹介したいと思います。

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