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君に贈る火星の(ロング版)

「これ、つまらないものだけど、君に」

 火星名物と書かれた箱を、僕は差し出した。

「あら、火星屋のお饅頭」

「君に会いに来るって言うのに、その、緊張しちゃってさ。お土産のことを忘れてて、さっき通りかかった店で買ってきたんだ。やっぱ異星産よりも、親しみのある火星の味が口に合うんじゃないかと思って」

「別に手土産だなんて気にしてもらわなくてよかったのに。私はあなたという人と一緒にいられるだけでいいの。でも、せっかくだから一緒にいただきましょう」

 彼女は饅頭の箱を開けた。開封した途端、ふわりと浮き上がる青い球体。そこには緑と茶色の斑模様があしらわれている。

「口に含んだ瞬間の高温ガスの膨満がなんとも癖になるのよねー。新作フレーバーの原材料はたしか……えっと、何て言ったかしら」

「この前食べたのが土星。新作はω♀♌、僕にとっての地球だよハニー。それでどうかな。これと引き換えに、代替惑星に避難した僕の故郷の地球星人、いや、ω♀♌星人を生かしてもらうというのは」

「そうねえ、まぁこんなにおいしいω♀♌をいただいたら、こちらも考えなくちゃいけないわねえ。どうするパパ?」

 彼女が咀嚼する喉元で、ぼんっと安っぽい音を立てて、僕たちの母なる地球が爆発したのが聞こえた。

 これで僕たちの帰る場所は消滅した。あとは世界政府の差し出した生贄である僕がこの醜くデカい娘と結婚すれば、征服下ではあるものの、我々の息はどうにか繋がることになる。

 上空の宇宙空間に陣取った超巨大な侵略一家の顎を、僕は、やつらが最初に占領して根城としてきた火星の地表面から見上げた。

 今にも鼻息で僕を吹き飛ばしそうな娘が、こちらに秋波を送っていた。

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