短編小説「かたわれ」
「この人、知りませんか」
と、周囲の人に訊きまわる男性。別に刑事とかでもなさそうで、スーツはジャケットを着ているのに、ネクタイがない。
「この人、知りませんか」
探している人のものなのか、写真を手になりふり構わず、会った人すべてに尋ねていく。
「この人、知りませんか」
舌打ちをして、手で、あっち行け、のサインをするおじさんもいる。あからさまに無視する人もいる。
「僕の大事な人なんです。一週間前に会ったっきり、帰ってこなくて」
家族か恋人だろうか。とにかく、同居しているようだ。