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整体学校を「出禁」になった話


~第一章 臭い靴の洗礼と~


(臭っ、くっせ!)これが生まれて初めて行った「整体スクール」の第一印象だった。多分思うだけでなく口に出ていた。それだけ臭かった。開けっ放しのドアの入り口に入りきれなく脱ぎ散らかしている生徒の小汚い靴たちは、悪臭を放っていた。


日頃、精密電子部品工場で5S運動(整理,整頓,清潔,清掃,躾け…)委員の俺は「何もかもぶんなぐりたい」気持ちになった。悪質キャッチ商法英会話教材会社を一か月で飛んで自転車で伊豆に潜伏していた俺は、人生のやり直しをはかるべく、「整体習得」にかけていた。が…


「いつでもご自由に見学しにきてください!」とスクールのホームページに書いてあったわりには、「こんにちわ~」と言っても誰も出てこない。いや、中に人はいるのだ、ベッドが数台見えるし、十数人の生徒さんとおぼしき人たちが整体の練習をしている、あちらも俺の存在はわかっているらしく、チラ見するのだがスルー。



★★★




…何がいけないのだろうか?もしかしたら服装がダメなのか?前日、整体スクールの見学には何を着ていくのか迷った。「ベター」ではだめなのだ、相手の記憶に残るような「ベスト」でなくては。



ムダに悪質英会話商材商法の研修を思い出した俺は、やはりこちらの意気込みや、礼儀を見せないとダメだと思い、スーツしかない!と気づいた。が、詐欺英会話教材会社を思い出したくないため、スーツは処分していて、日本語学校講師時代に着ていた、真っ青なド派手な漫才師風、講師ジャケットしか持ってなかった、しかなたい、それにした。



それが仇になったか…。もしかしたら流しのピン芸人に思われているのかもしれない。ドアを挟み俺たちは膠着状態に陥った。




★★★



小一時間たったころ、おれはふと気づいた。「はは~ん、これはあれだな。俺のやる気ってやつを見てるな?」そう思った俺は、開けっ放しになってるドアの前に、さらに棒立ち続けた。根競べだ。なるほどな。俄然やる気が沸いた俺は、直立不動で立ち続けた。


先に動いたほうが殺られる!そんな根競べがどれくらい続いただろう。やがて教室の中の一人が、歩いてきてこう言った。「やるじゃない」とはじめ聞こえたのだが、よく聞くと「警察呼びますよ」だった。俺は素直に謝罪し、相手ではなく、真横の壁を見ながら「見学希望者であること」を伝えた。



当時俺は、出版社の編集者の自宅に詰められて以来、カジュアルに病んでいたので、3秒以上相手の眼を見て話すと過呼吸になり、頓服薬の「ソラナックス」が手放せない状態だった。




★★★




すこしやっちまったかなと思った俺は、建築現場、土方のプレハブ事務所のような乱雑な机と、気が滅入るようなパイプ椅子に座らされ、さあ(こっからだ!)と気合を入れた。「え?」どうやら声に出ていたようだ。


売人(ばいにん)ですか?と聞かれ、怪訝に思ったが「あったかいのも冷たいのもクスリはやってません」と正直に答えた。何の審査だ?「芸人ですか?」の聞き間違いだった。講師ジャケットがまずかった。


そんなやりとりで急に恥ずかしくなり、背中がきゅーっと固くなって、耳がきーんとなったとき、壁に「スクールと提携してる中国の医科大学の免状」みたいなのが貼ってあって、外語学科だった俺は得意の中国語で担当者に話しかけ挽回してみた。「え?」いや、僕も中国に長く留学してたんで。と言ったら……





高2のクリスマスに彼女から突然、新しい彼氏を紹介されて変な性癖がついたのを思い出していた


~第二章 ワン切りの犯人~


先生は「中国には行ったことない」と答えた。俺はカバンからソラナックス(精神安定剤)をすっと出して、数錠水なしでぼりぼりと噛んだ。「あ、ただの安定剤です」先生はすごく嫌な顔をした。

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