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ちゃんみな『日本と韓国、世界を音楽の力強いメッセージで繋いでいくトリリンガルラッパー』(後編)人生を変えるJ-POP[第45回]

たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

今回は、日本人の父親と韓国人の母親を持つラッパー、ちゃんみなを扱います。彼女は、高校生でデビューをした経歴の持ち主で、独特の音楽のセンスを持つ人です。彼女がデビューしてきた経緯や、その後のグローバルな活躍など、「練馬のビヨンセ」と呼ばれる彼女の魅力について書いていきたいと思います。

(前編はこちらから)


歌声の強さと種類の豊富さが最大の魅力

ラッパーというと、どうしてもラップのイメージから、歌声というものの印象が薄くなりがちなのですが、ちゃんみなの魅力は、歌声の強さと種類の豊富さにあります。

彼女の歌声を私が得意とする音質鑑定してみると、下記のようになります。

ちゃんみなの音質鑑定
① 声域は、中音域。女性のメゾソプラノからアルトにかけての音域が主流。
② 声の幅はやや太く、声量が豊か。
③ 響きはストレートというよりは、ややビブラート寄り。
④ 透明感よりも濃厚な色彩感の方が強い。
⑤ やや鼻腔にかかった甘い響きを持つ。
⑥ ビブラートは若干あるが、響きの中心に固い芯を持つ歌声。
⑦ 成熟した響き。

ラップ音楽になじみのない人でも受け入れられる声の秘密

ザッとこのような音質の特徴を持ちます。彼女の歌声は、高校生でデビューした頃から、既に濃厚な成熟した響きを持っていたのが特徴です。

普通、この年代では、男女共に透明感のある音質をしていることが多いのですが、彼女の場合は、既に成熟した響きを奏でています。

これが、高校生という年代でも、ラップの言葉が浅くならない理由だったのではないかと感じるのです。声の響きが濃厚だと、言葉1つ1つが立ちやすく、音楽の流れに埋もれないので、それだけ人の耳に残りやすいと言えるでしょう。

ラップは、「言葉が命」ですから、1つひとつの言葉が明確に立ち上がっていく声の響きは特に重要です。

また、彼女の場合、フリースタイルのラップではなく、音源ラップであるため、そこには明確なメロディーや音源が存在します。

ラッパーの場合、ラップ部分とボーカル部分の声の繋ぎが非常に重要なのですが、よくありがちなのは、いわゆるラップ(喋り)とボーカル(歌)部分との声に差異があることです。

今までラップ部分では、強く明確な声で喋っていたものが、ボーカル部分になった途端にボリュームがダウンして、全く違う声になる人がいます。
こうなると、ラップ部分とボーカル部分に明確な差が生まれて、音楽の流れが分断され、ラップ部分とボーカル部分が全く別の切り離されたような印象を持つことがあります。

これが、ラップ音楽が万人に受け入れられにくい要因だったりするのですが、彼女の場合は、このラップ部分とボーカル部分の声の差異がほとんど感じられません。

ラップ部分も流れるようにメロディックで、そのメロディックな喋りのまま、ボーカル部分に入っていくので、非常に音楽の流れがスムーズです。
これが、彼女のラップが多くの人に受け入れられている理由の1つではないかと感じます。

即ち、ラップ音楽に馴染みの少ない人の耳にも違和感なく彼女の声が入ってくるのです。これは、彼女が持つ大きな魅力の1つですね。

3か国語を使いこなせるからこそ

もう一つ、言えるのは、彼女の日本語のタンギング(単語の子音の発音)の明確さです。

これは、彼女が生まれた時から韓国語を話す環境の中で育ち、その後、日本語をしっかり習得した、ということに大きな理由があるように感じます。

韓国語は、他の欧米諸国の言語と同じように子音で終わる言葉があります。また、子音の発音が明瞭で、日本語のように下顎の動きだけで発音できる言語ではなく、上唇をしっかり使います。

これが、日本語を習得する上でも彼女が韓国語と同じ口の使い方で習得していったように感じるのです。そのため、彼女の日本語は非常に言葉が立っています。

日本語、韓国語、英語という3カ国語を使いこなすトリリンガルであることがラップの部分で優位に働いているのです。

たゆまぬ練習が、彼女をつくりあげた

また、彼女がボーカリストとして優秀であると感じる理由に、ボーカル部分の歌唱力、表現力があります。

しっかりとボリューミーにパワフルに歌う部分と、響きを抜いて、細い歌声で表現する部分の歌い分けが明確にされており、細い歌声の場合は、ラップ部分もそのような声になり、強くパワフルな歌声の場合は、ラップ部分もパワフルボイスのまま、語っていきます。

この歌声の強弱のコントロール力が非常に優れていて、仮に彼女がラップではなく、普通のポップスを歌っても見事に歌いこなすのではないかと感じる部分です。ボーカリストとしての能力も非常に高いことがわかります。

自身の歌唱力について、彼女は、インタビューの中で、「それは日々の練習ですよ。やっぱり歌は練習ですから。今回急にできるようになったのではなく、何回も、何年も練習して、ようやく歌えるようになりました。歌がうまくなるには時間がかかります。」と答えています。(

このように真摯に真正面から音楽に向き合う姿が彼女の最大の魅力でもあるのです。

クリエイターとしての魅力

もう一つ、彼女の魅力に、その卓越したクリエイター力があります。今回、彼女のミュージックビデオをつぶさに拝見しましたが、独特の切り口の音楽と同様、鋭い美的センスと絵画的センス、そして、日本の和というものをどこかに意識した独特の世界観を持つ人だと思いました。

この世界観の具現化には、ビーファースト(BE:FIRST)デビューシングル『Gifred.』に関わっているRyosuke Dr.R Sakai(サカイリョウスケ)の存在が大きいと感じます。

彼が立ち上げた音楽カルチャークリエイティブカンパニーという会社MNNF(モノノフ)は、ちゃんみなを始め、数人のアーティストの曲を手掛けています。

彼女の世界観を見事にクリエイトし、具現化していくという意味で、彼の存在も大きいのではないかと感じるものです。

武道館の次は韓国デビュー。今後が楽しみなひとり

ちゃんみなは、日本人と韓国人のハーフということから、早くから韓国での活動というものを視野に入れていました。

2020年には、少女時代のテヨンが日本で発売した2枚目のミニアルバムにちゃんみなをフューチャリングした『#GirlsSpkOut ft.ちゃんみな』を公開。二人が息のあったところを見せています。(

また、「日本武道館で歌えたら、韓国に行く」との言葉通り、2021年10月に4年にわたり展開してきた「THE PRINCESS PROJECT」のフィナーレを日本武道館で開催した後、2022年に韓国語楽曲『Don’t go( feat. ASH ISLAND)』で韓国デビュー。

さらには、2023年12月、チャンネル登録者数200万人を超える韓国の音楽YouTubeチャンネルDingo Freestyleの番組『Killing Verse』に日本人アーティストして初出演を果たしました。

このチャンネルは、日本のアーティストの一発撮りで有名な「THE FIRSTTAKE」と同様のコンセプトのチャンネルで、メドレー形式のライブ歌唱を“一発撮り”の“ノーカット”で披露して、アーティストの高いラップスキルや歌唱力を臨場感たっぷりに楽しめる番組になっています。

この番組で彼女は、今までにリリースした韓国語楽曲に加えて、『Never Grow Up』や『美人』、韓国国内でも人気の高い『ボイスメモ No. 5』など8曲を披露しています。

また、11月24日に韓国で発売した3rdシングルの『Biscuit』のMVは、渋谷の街中で撮影した動画を使っていて、韓国で反響を呼んでいるとのこと。

自身が日本と韓国のハーフであることから、「音楽を通して日本と韓国の架け橋になることが自分の仕事」と思うようになったと言います。(

今年の3月には、韓国を始め、香港、台湾などのツアーが予定され、今後、益々、グローバルな活躍が期待できる彼女は、日本語、韓国語、英語を1つのものにリミックスする能力に長けていると感じます。

今後、彼女の力強いメッセージが、アジアを始め、世界中に届いていくことを期待するものです。


久道りょう
J-POP音楽評論家。堺市出身。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン元理事、日本ポピュラー音楽学会会員。大阪音楽大学声楽学部卒、大阪文学学校専科修了。大学在学中より、ボーカルグループに所属し、クラシックからポップス、歌謡曲、シャンソン、映画音楽などあらゆる分野の楽曲を歌う。
結婚を機に演奏活動から指導活動へシフトし、歌の指導実績は延べ約1万人以上。ある歌手のファンになり、人生で初めて書いたレビューが、コンテストで一位を獲得したことがきっかけで文筆活動に入る。作家を目指して大阪文学学校に入学し、文章表現の基礎を徹底的に学ぶ。その後、本格的に書き始めたJ-POP音楽レビューは、自らのステージ経験から、歌手の歌声の分析と評論を得意としている。また声を聴くだけで、その人の性格や性質、思考・行動パターンなどまで視えてしまうという特技の「声鑑定」は500人以上を鑑定して、好評を博している。
[受賞歴]
2010年10月 韓国におけるレビューコンテスト第一位
同年11月 中国Baidu主催レビューコンテスト優秀作品受賞