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#15 節分です。鬼は”どこ”?

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。二人の掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

右:兄の前誠、左:弟の前叶

●前誠 今日は節分なので、直球の質問を豆みたいに投げていくわ(笑)。「なんで節分って豆投げるの?」

○前叶 えっ!?? えっとね、いろんな意味があるんだけど、代表的なものを2つ話すね。
まず1つは、陰陽五行でいうと、鬼っていうのは「木気」。豆っていうのは白くて丸くてかたいもので「金気」のもの。陰陽五行の思想でいうと「金剋木」っていって、金は木に剋つの。

●前誠 斧で木を切り落とすみたいなイメージかね?

○前叶 そうそう。そういう発想を根本において考えると、鬼っていうのは木、豆っていうのは金だから、豆を鬼に向かって投げることで退散させるっていうのが一つ。
もう1つは字を崩してゲンを担ぐのが日本人は得意だけれども、豆っていう字は、魔がさすっていう「魔」と新芽が生えるの「芽」をあわせて「魔芽」って読ませてたのよ。

●前誠 なるほど。

○前叶 「鬼は外」って家の中から外に豆を投げるじゃん。あれは自分の心や家の中にある魔の新しい芽を摘むために、豆を外に投げるっていう意味合いがあるの。

●前誠 出る杭を打つじゃないけど、悪いことも芽のうちに摘んでおくっていうわけだね。

○前叶 そう予防策みたいなことかな。

※魔(ま)を滅(めっ)すると読ませたりもします。

上原寺では「鬼は外」禁止!?

●前誠 そういえば子どもの頃さ、豆まきで「”鬼は外”って言っちゃダメだよ」みたいなことあったよね。

○前叶 子どもの頃は理由がわからなかったな。

●前誠 今となれば確かに、いなくなったら困っちゃう神さまだよね。
それこそ日蓮宗寺院に多く祀られている、鬼子母神。字にも表れているように鬼の神さまですから、鬼子母神さまに外に行かれては困るということで、「鬼は外」とは言わずに「福は内」とだけ言うってことだった。

○前叶 鬼子母尊神のことを少し説明すると、もとの名はハリティといって、インド古代神話に出てくる羅刹の女。一説には1万人もの子どもがいたともいわれています。

●前誠 人間の子どもをさらって食べていたことから、お釈迦様に自分の子どもを隠されてしまったんだよね。

○前叶 そう。

◎お釈迦様「お前にはたくさんの子どもがいるではないか、なんで一人ぐらいいないからと言って悲しみ憂えるのだ」
▲ハリティ「一人であろうと1万人いようと親にとっては大事な子どもです。かわいさはみな同じです」
◎お釈迦様「世の中には天地にもかけがえのないたった一人の子しか持たない親もいる。今までその子どもでもお前は食べてきたのだぞ」
▲ハリティ「恐れ入りました、もしわが子が無事に戻ってきましたら二度と人間の子を食べません」

彼女は自分の過ちをただ懺悔するばかりではなく、今後は人々の子どもを守ろうと決心しました。このように改心していわゆる善神、善い神として心を入れ替えたというパターンの鬼もいれば、鬼滅の刃に出てくるような悪さをする鬼っていうのもいるよね。

●前誠 そうだね。

○前叶 やっぱりよくない鬼でよく耳にするのは飢えてる鬼、「餓鬼」じゃないかな。

●前誠 お腹がポコッとなってる?

○前叶 そう。お盆もお施餓鬼なんていって一緒にしたりするよね(厳密にはお盆とお施餓鬼は別の行事)。「施餓鬼」といって、鬼に施すという行事があるくらい、「餓鬼」は飢えてる鬼。僕が好きな餓鬼のエピソードでいうと、「お箸の話」。みなさんご存じでしょうか。

お施餓鬼の棚飾り

●前誠 有名な話だから知っている人も多そうだね。

○前叶 ざっくり概要を説明すると、仏教の中には十界といって、生命観を構成しているものがあるんだけど、その中には餓鬼界という世界もある。餓鬼界には飢えている鬼がたくさんいて、そこに食べ物を用意すると、我先にごはんを食べようとする。だけど、食べたい欲の量に応じて、手元の箸が伸びていってしまって、それは自分の身長よりも伸びてしまうほど。だから、自分だけは先にごはんが食べたいと思うんだけど、箸が長すぎて自分の箸だと自分のごはんが食べられない。
で、どうすればいいかという仏さま的な答えは、この長い箸で向かい側に座っている餓鬼に食べさせてあげる。でもそれができない、自分のことしか考えられない。こういう状態を”餓鬼”と呼ぶわけですね。

●前誠 これが僕らでいうところのよくない鬼のパターン。

○前叶 そう考えると日蓮宗って鬼の扱いがほかの宗派と違うよね。

●前誠 まあ何を隠そう、大荒行で100日間拝むのは鬼子母尊神さまだからね。

○前叶 これはすごく珍しいことなんだよね。鬼子母尊神も改心したとはいえ、鬼は鬼だから。要するに餓鬼界の王様なわけ。十羅刹女をつれていたり、夜叉っていう分類になってたり…。「鬼面仏心」と鬼のような怖い顔をしているけれど仏のような優しい心を持っているって言ったりもするけれど…。

●前誠 怖い顔をしている一方で、子安鬼子母神って柔和な顔をしているじゃない。

○前叶 赤ちゃんを抱えててね。
なんで表情に違いがあるのか? どうして祈祷本尊としてそえられたのか? …これ以上は有料コンテンツかな(笑)。

鬼は「春」が苦手!?

○前叶 専門的な話になるかもしれないけど、暦の立春と節分って春を迎える準備。

●前誠 まだまだ寒いけどね。

○前叶 鬼を払うときに「九字(くじ)」、陰陽師なんかでも「九字を切る」とか言うんだけど…。

●前誠 「臨・兵・闘・者、、、」みたいな?

○前叶 それそれ。でね、春っていう字は漢字で書くと9画。だから春を迎えるにあたって、陽のイメージ、陽気なイメージの季節を迎えることは、陰の鬼を払っていくっていう意味があるの。

●前誠 え、それマジで知らなかったわ。

○前叶 春には鬼を払う効果があるのよ。だからお正月とか春じゃないのに「新春」って言ったりする。あれも新年に春という字を使って魔を払っているの。九字を切ってるんだね。

●前誠 もう、節分が豆まきや太巻きを食べるだけの日にならなくなるね(笑)。皆さまの明日が、明るい日となりますように。

○前叶 合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。

仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。
https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI