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Superfly『天からGiftsされた歌声で人々を応援し続けるボーカリスト』(前編)人生を変えるJ-POP[第43回]

たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

今回は、昨年6月に喉の不調でツアーを中止、年末の紅白歌合戦において、見事に復活して歌声を披露した女性ボーカリストSuperfly(越智志帆[おちしほ])を扱います。


音痴だと思っていた中学時代

Superflyは2004年の結成当時は、ギタリストとボーカルの2人の音楽ユニットでした。その後、ギタリストが脱退し、越智志帆1人になっていますが、そのまま名称を使っています。

2007年に『ハロー・ハロー』でメジャーデビュー。Superflyの元々の意味は、カッコいい、凄い、派手好みの、というような意味があります。

ユニット名は、彼女がユニットに加わった時点でつけられていたとのことですが、153センチの小柄な身体から繰り出されるパワフルな歌声は、まさにこの名称通りと言えそうです。

2008年に1stアルバム「Superfly」をリリース。オリコンアルバムランキング1位を獲得後、これまでに6枚のアルバムでオリコンランキング1位を獲得しています。

彼女は、1984年生まれで今年2月にちょうど40歳。愛媛県の出身です。音楽と触れ合うきっかけになったのが、中学生のとき。偶然、5、6人でゴスペルを歌う機会があり、人前で歌ったことが、歌の道に入るきっかけになったとのこと。

自分はずっと音痴だと思っていて、人前で歌うことなど恥ずかしいと思っていたというのですから、自分の才能に全く気づいていなかったということになります。

歌が自信を与えてくれた

彼女は、小学生の頃には、「自分はなぜ、ここに生まれたのだろうか」とか「自分は何の役割があって生まれたのだろうか」と思い悩み、中学生の頃には周囲とうまくコミュニケーションが取れず、疎外感を味わっていたそうです。

歌う機会を与えられたことで知った楽しみ。素で何の鎧もつけないありのままの姿のように見えた、歌っている人たちの姿に、自分が楽になり、音楽の時間が楽しみになったようです。

また、幼馴染みの友人が、彼女の話し声が好き、と言ってくれたことで、持って生まれた声を褒められたのです。これが自分に自信を持つきっかけになり、ありのままの自分を受け入れられるようになったと言います。彼女の10代は悩み多き時代だったのですね。(

『愛を込めて花束を』の大ヒットから

2008年に出したシングル『愛を込めて花束を』が、ドラマ「エジソンの母」の主題歌に選ばれ、大ヒット。彼女のパワフルな歌声が多くの人の印象に残り、一躍有名になっていきます。

2009年に発売されたドラマ「BOSS」の主題歌『My Best Of My Life』は、翌2010年の「第82回選抜高等学校野球大会」の入場行進曲に決定。さらに同年の『タマシイレボリューション』は、「2010NHKサッカーテーマソング」になるなど、彼女の歌声は応援ソングとして、多くの人の耳の中に印象付けられていくことになりました。

その後も『輝く月のように(2012年)』『Beautiful(2015年)』『Ambitious(2019年)』『覚醒(2019年)』など、数々のドラマや映画とのタイアップによって、ヒット曲を輩出していきます。

10代のみならず、誰もの背中を押してくれる楽曲『Gifts』

2018年には、「第85回NHK全国音楽コンクール 中学校の部」の課題曲として『Gifts』を書き下ろし。

この楽曲は、歌詞に彼女自身が悩める10代を過ごした経験から、中学生時代にこんな曲があったらいいな、という思いで書いた曲だと言います(彼女は、2011年の映画「スマグラー おまえの未来を運べ」の主題歌『愛をくらえ』以降自身の楽曲を書き下ろすようになりました)。

この曲を聞いた人が「もっと人生が楽しく過ごせる気持ちになるようなポジティブな楽曲」にしようと思って作ったとのこと。

彼女曰く、中学生の合唱コンクールの課題曲なので、自身以外が歌うことを想定した曲を作るのは初めてのことだったとか。

自身が歌う楽曲の場合は、自分と楽曲の距離が近い、同一視という感覚だったように思います。誰かが歌うということを想定すると、そこに距離感が生まれ、ことばのチョイスが変わっていく、少し視野が広がる、という感覚だったということから、自分の感覚を客観視するようなライティングになったのだと想像します。

この楽曲は、悩める10代の背中を押す内容の歌詞で、生まれた日も名前も、父も母も、行きたい場所も、観たいものも、すべてのものがあなたを応援しているから、あなたはありのままの自分で何も怖がることはない、という応援ソングになっています。

この楽曲を歌うことで、「自分を誇りに思えるようになった」というコメントがYouTubeにあがるぐらい、10代の悩める気持ちに寄り添う歌になっていると言えるでしょう。

また、中学生だけでなく、大人にも評判がいいらしく、「自分の中にある“Gifts”に気付いてほしいという気持ちが前のめっていたんですけど、潜在的にはみんなが誰かのいいところを教えてあげられるようになったらいいなという思いのほうが大きかった」と話す彼女のポジティブなことば選びが、ネガティブになりがちなタイプの人達の心に響いている、ということとも言えます。

誰もが、自分以外の誰も持たない特性というものを持って生まれている。それが天から与えられた“Gifts”であるということに気づけば、もっと自分を大切に出来るし、ひいては、それが他の人の良さも認めることに繋がる。そのこと自体が大きな“Gifts”だ、ということを彼女は曲を通して伝えたかったのかもしれません。(

2015年には紅白に初出場

2019年には、NHK連続テレビ小説「スカーレット」の主題歌に『フレア』が選ばれ、彼女の明るく伸びやかな歌声が毎朝、お茶の間に届くようになりました。

この年は彼女自身、最大規模になるアリーナツアーを全国10ヶ所、計15公演を行い、11万人を動員して成功しました。

年末のNHK紅白歌合戦には、2015年に初出場を果たし、これまでに7回出場しています。

喉の不調で6月以降ライブを中止していた彼女でしたが、昨年の紅白では『タマシイレボリューション』を歌って見事に復活。伸びやかな歌声を披露しました。(

後編では、彼女の歌声の魅力や独特の声の特性、歌手としての秀でた部分や、結婚し一児の母となった彼女の歌声の変化など、ボーカリスト越智志帆の魅力に迫りたいと思います。


久道りょう
J-POP音楽評論家。堺市出身。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン元理事、日本ポピュラー音楽学会会員。大阪音楽大学声楽学部卒、大阪文学学校専科修了。大学在学中より、ボーカルグループに所属し、クラシックからポップス、歌謡曲、シャンソン、映画音楽などあらゆる分野の楽曲を歌う。
結婚を機に演奏活動から指導活動へシフトし、歌の指導実績は延べ約1万人以上。ある歌手のファンになり、人生で初めて書いたレビューが、コンテストで一位を獲得したことがきっかけで文筆活動に入る。作家を目指して大阪文学学校に入学し、文章表現の基礎を徹底的に学ぶ。その後、本格的に書き始めたJ-POP音楽レビューは、自らのステージ経験から、歌手の歌声の分析と評論を得意としている。また声を聴くだけで、その人の性格や性質、思考・行動パターンなどまで視えてしまうという特技の「声鑑定」は500人以上を鑑定して、好評を博している。
[受賞歴]
2010年10月 韓国におけるレビューコンテスト第一位
同年11月 中国Baidu主催レビューコンテスト優秀作品受賞