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中学受験ビギナーの私に、「最近の私立中学の動向」を教えてください!『中学受験 親のお悩み相談室』(#15)

少子化にもかかわらず、中学受験者は年々増加しています。中学受験は親と子がタッグを組んで取り組むものだからこそ、さまざまな悩みや壁にぶつかることも…。本連載では、子どもの中学受験を控えた親御さんの悩みに、教育ジャーナリストの中曽根陽子先生が答えます。

質問: 中学受験に興味はあるものの、たくさん学校がありすぎてよくわからず…。子どもの中学受験を考え始めた私に「最近の私立中学の動向」を教えてください!

回答:学校教育全体が大きく変わろうとしていて、私学の動向も目まぐるしく変わっています。その中でも、今押さえておきたいのが、「探究、グローバル、STEAM」の3つのトレンドです。

学校選びにも役立つ「サイトの見方」をマスターしよう

押さえておきたい私立中学の動向ですね。中学受験が盛んな首都圏には300校以上、関西圏には100校以上の私立中学校があります。

そもそも私立学校というのは、それぞれの創立者が何らかの志を持って学校を創っているので、それぞれ独自の「建学の精神に基づいた教育方針」を持っています。

ですから、学校によって行っている教育はさまざまで、それが私学教育の醍醐味でもあります。

各校のサイトを開けば、教育理念に学校の成り立ちが、教育方針や学校長の挨拶に目指したい生徒像が書かれています。まずは、ここを確認して、その内容に共感できるかが学校選びの一歩です。

教育内容のところには、具体的な取り組みが書かれています。ここは、学校によって違うわけなので、それぞれの学校が何を大事にして、具体的にどんなことをしているのかという視点で読んでみてくださいね。

私学は、公立に比べて国の制約も少ないので、思い切ったカリキュラムを組むことも可能ですし、特に今は、学校教育全体が大きく変わろうとしているときでもあり、数年で全く教育内容が変わっていたりします。

意中の学校には度々訪れて、動向を確認されることをおすすめします。

私立中学に共通する3つのトレンド

とはいえ、私立中学全体に共通する「いくつかのトレンド」はあります。それは次の3つでしょう。

  1. 探究

  2. グローバル教育

  3. STEAM教育

まず探究ですが、新学習指導要領でも主体的・対話的・深い学びというキーワードが示され、探究という言葉が俄然クローズアップされるようになりました。

どこの学校も探究というキーワードを使うようになりましたから、余計に具体的にどんな活動をしているのか、踏み込んでみる必要がありますね。

学校によって取り組みはさまざまです。

  • 行政や企業と組んでそれぞれの課題を解決するためのプロジェクトを動かす

  • 個人の興味関心を元に、長期に渡って研究を行い論文にまとめて発表

  • 修学旅行の行き先を決めて実施し、振り返るところまで生徒主体で行う

このように、行事の運営を一つのプロジェクト活動と捉えている学校もあります。

総合の時間だけでなく、教科の枠を超えて生徒が自ら課題を見つけて設定し、横断的かつ総合的な学習をし、課題解決のための能力を育成しているのです。

次にグローバル教育ですが、単に英語教育が充実しているだけではなく、「グローバルな視点で物事を見て考える力を養う教育」を謳っている学校が増えています。

特徴としては、英語で授業が行われていたり、留学制度が充実していたり、海外大学進学への道が開かれていたり、国際バカロレア教育を行なっていたり、インターナショナルスクールを併設していたり、日本にいながら海外の高校の卒業資格も取れるダブディイプロマの制度を持っていたり、取り組みもレベルも様々です。

もちろんベースとして英語力は必要ですが、今の私学は公立と比較して授業時間数は1.5倍程度取っていますし、ネイティブ教員による英語の授業、英検などの外部試験の取得など、ある程度どこも力を入れています。

しかし、それも日本の大学受験に対応するためのものなのか、グローバル社会で必要な道具として使える英語力の習得や海外大学進学を目指しているのかで、内容も変わります。

もし、海外留学をしたい、使える英語力を習得したいと考えているのであれば、そのようなプログラムがあるところを選ぶべきですし、インターナショナルコースなどを設けている学校を選ぶのであれば、受け入れ対象の英語力もチェックした方がいいでしょう。

最後にSTEAM教育です。STEAMとは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Art)・数学(Mathematics)の頭文字をとったものです。

文部科学省によると、「文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成」を目的としたもの、と説明されています。

日本は理系人材が不足していると言われていて、国も生き残りをかけて、技術革新を担う人材を育てていこうという意図もあり、STEAM教育に力を入れようとしているのです。

「STEAM教育=プログラミング」ではない

STEAM教育というと、「プログラミング」と思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。

上記の探究と同様で、教科の枠を超えた教養を身につけ、物事を俯瞰的に捉えて課題解決ができる力を育むのが、STEAM教育です。特に科学・技術・工学・数学など理系の能力を伸ばす取り組みを行います。

具体的には、医進コースを設定し、医歯薬系の大学進学を目指した実験をベースにしたカリキュラムが組まれていて、中には大学レベルの実験設備が充実している学校もあります。

また、ロボット制作やプログラミングなど工学系のプログラムが充実している学校など、学校によって内容は様々です。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に認定されているところは、STEAM教育に力を入れていると考えていいでしょう。

以上、3つのトレンドを見ましたが、大きな流れは探究的な学びであること。その上で、グローバル社会で活躍できるスキルやマインドを育みたい、海外体験をしたいと思うなら、グローバル教育に強い学校を選ぶべきですし、理系に関心のある人なら、STEAM教育に力を入れている学校の方が経験を積むことができます。

それぞれの学校が、どんな人を育てようとして、その教育を行なっているのかという視点を持って眺めてみると、学校の姿がより明確になってきます。

すでにお子さんの強みや関心がはっきりしているなら、それに対応している学校を選ぶといいですね。


中曽根陽子(なかそねようこ)
教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。現在は、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。20年近く教育の現場を取材し、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクトであり、そのキーマンのお母さんが探究することが必要」とマザークエストを立ち上げた。常に自身の最新学習歴の更新に務め、お母さんの気持ちがわかるポジティブ心理学コンサルタントとして、エンパワメントサークルも主宰している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)などがある。