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「そもそも中学受験をさせるべきか悩んでいます。中学受験するメリットとデメリットは?」『中学受験 親のお悩み相談室』(#1)

少子化にもかかわらず、中学受験者は年々増加しています。中学受験は親と子がタッグを組んで取り組むものだからこそ、さまざまな悩みや壁にぶつかることも…。本連載では、子どもの中学受験を控えた親御さんの悩みに、教育ジャーナリストの中曽根陽子先生が答えます。

質問:そもそも中学受験をさせるべきか悩んでいます。中学受験するメリットとデメリットを教えてください。

回答:合格後、中高一貫校ならではの教育プログラムを受けられ、高校受験の準備に時間を割かなくてよいのが一番のメリット。ただ、学習塾や入学後の授業料など、さまざまな費用がかかり、親も子どもの受験に積極的に時間を割かなければいけないのが、デメリットといえるかもしれません。

中高一貫校にしかないメリットを知ろう

中学受験をさせるべきかどうか悩んでいらっしゃるんですね。周りのお友達が塾に行き出したり、中学受験のニュースを見れば、自分の子どももさせた方がいいのかなと心が揺れますよね?

中学受験をするということは、中高一貫教育を選ぶということになります(もちろん一貫校に入っても、高校受験はできますけれど)。なので、中学受験をするかしないかは、中高一貫教育を選ぶか否かの選択になります。

そこで、中高一貫教育のメリットをお話ししますね。

1つ目は、時間的なゆとりがあるということです。中高一貫教育の特徴は、高校入試が無い分、高校受験のための勉強に時間を割く必要がないので、部活や学校生活、習いごとなどにじっくり取り組める余裕があります。

また、学校によっては、キャリア教育と進路指導を組み合わせたプログラムを行ったりもしています。

中1から高3というと、子どもから大人になる大事な時期ですから、自分についてじっくり考え、自分は何が好きで得意なのか、何をして社会で生きていくのかを考え進路を決めていく必要があります。

その時期に、いろいろな経験を重ねながら、自分のやりたいことを見つけていくことができる余裕を持てるというのは、一貫教育の一番のメリットかなと思います。

次に教育内容についてです。以前は中高一貫教育の方が先取り学習をして、大学受験に有利と言われたりしましたが、今は事情が変わってきています。
むしろ、一貫校ならではの充実したプログラムを評価する人が増えているようです。

「自分を深める学びの機会」が多いのも、大きな魅力

今、教育が大きく変わろうとしていることを知っていますか? これまでは、大学受験をゴールに、正解を教え込む教育が行われきました。しかし、時代の変化とともに、社会で求められる力も変化していることに対応するために、主体的学びへのシフトが行われているのです。

そこで注目されているのが探究型学習です。探究型学習は、自ら学び、自ら考える力をつける学習です。教科書に書いてあることをただ覚えるのではなく、教科の垣根を越えてさらに深掘り発展させて学んだり、自分の興味のあるテーマを追いかけて論文にまとめたり、学校の外に出て体験学習をしたり、プロジェクトを動かしながら学んだりします。

そういう学習には時間をかける必要があるので、時間的余裕がある中高一貫教育では、そういう学習が行いやすいと言えるでしょう。

もちろん探究型教育は、公立中学でも行われていくので、中高一貫教育でないとダメということではありません。ただ、現状は、どうしても高校受験のための勉強のウエイトが大きくなるのは事実です。

なので、もう一つの中学受験のメリットは、中高一貫教育ならではの教育プログラムが用意されているということです。

受験システムの違いは大きい

また中学受験と高校受験では、システムが全く違います。高校受験は、当日のテストだけでなく、授業中の態度などが評価点になる内申点も重視されるので、先生との相性が悪かったり、苦手科目があると、不利になるとも言われています。

それに対して、中学受験は当日の試験の結果が全てなので、ある意味フェアであるとも言えるでしょう。

ただ、それもやり方によっては、デメリットになります。中学受験は、ほとんどの場合、親の主導で始まると思います。中には、子どもがやりたいと言ったから始めたというケースもありますが、例えそうでも、まだ小学生なので、受験がどういうものなのか、どのくらい大変なことをしなくてはならないのかを、分かって言っている訳ではないでしょう。

しかし、一旦塾に行き始めると、塾のペースに乗って勉強することになります。小学生が夜遅くまで塾通いをすることで、睡眠時間が削られ、長期間にわたり競争の中に置かれることで心身に負担がかかりすぎると、子どもを潰すことにもなりかねません。

また、3年間で約300万円とも言われる塾代の負担も大きく、それだけに、これだけの時間と費用をかけたのだからと、親がヒートアップしてしまう原因になっています。

高校受験だから、得られるものもある

その点、高校受験を選ぶと、小学校の間に受験のための塾通いをする必要がなく、習いごとを続けたり、好きなことをしてのびのび過せます。中学と高校で環境をリセットできることもメリットとしてあげられますね。

また親の役割も変わります。前述の通り、中学受験はほとんどの場合、親が主導して道を作り、子どもがその上を走る二人三脚型になります。また、中学受験では、学校選びはほぼ親の仕事になります。それだけに、親の方が力が入ってしまい、子どもに対するコントロールが強くなって、追い詰めてしまうなんてことも起きがちです。

一方高校受験はみんなが受験するので前提が違いますし、年齢的にも子どもが主体の受験になります。親はそこまで手出しもできなくなるので、親の役割は相談相手と言ったところでしょうか。

もちろん、中学受験も親が全てをコントロールするのではなく、上手にサポートする必要がありますが、高校受験の方がより子どもの意思が優先されます。

それぞれの特徴を表にまとめたので、参考にしてください。

出典『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)

ただ、中学受験も高校受験も、どちらも通過点に過ぎません。中学受験がいいのか高校受験がいいのかを考える前に、まず、学校は何のために行くのかを考えてみてください。

もし、知識をインプットするためだけなら、今はインターネット上にもさまざまな方法が提供されていますから、家庭でもかなりのことができます。そんな時代になっても、わざわざ学校という場所に出かけて学ぶ意味は、集団の中でいろいろな立場の人と関わりながら、刺激を受け合い学び合って、人として成長していくことにあるのではないでしょうか。

そういう意味で、どんな環境を選ぶことがお子さんにとってのベストな選択なのか、じっくり考えて選んでください。


中曽根陽子(なかそねようこ)
教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。現在は、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。20年近く教育の現場を取材し、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクトであり、そのキーマンのお母さんが探究することが必要」とマザークエストを立ち上げた。常に自身の最新学習歴の更新に務め、お母さんの気持ちがわかるポジティブ心理学コンサルタントとして、エンパワメントサークルも主宰している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)などがある。