正月休み

正月休みでかえって疲れがたまる人 - 養生大意抄13

1.正月休みでかえって疲れがたまる人

今年もあと1週間をきり、長い正月休みがいよいよ始まる。正月は自由な時間がたっぷりできるので、好きなことをして、ゆっくり過ごす方も多いだろう。

ただ、ゆっくりと楽しく過ごすつもりが、正月にかえって疲れてしまうこともある。好きなことをして過ごせば、休息になりそうなものだが、楽しいことほど、ほどほどが難しく、疲労をかえりみずに続けてしまう。

今回紹介する一節は、休養と趣味について。

『養生大意抄』意訳
○そもそも何をするのにも、節度というものがある。せつなく苦しいのに無理をしていると、気や筋骨を損傷する。

このようなわけで、もし苦しくてこらえきれないと感じたならば、すみやかに休息し、しばらく落ち着いて保養し、気も筋骨も少し復旧するのを待ってから再開する。

時々にでも暇を盗んで、春の花や、秋の月に興を催し、または野山や水辺に遊ぶなどは、みな心気を伸びやかにして鬱を解くようだけれども、程度が過ぎてしまったり、絶え間なく行ってしまえばかえって害がある。

たまに少しの間がよい。

すべて面白いと思うことは、わが身の疲労を感じさせなくする。後先を忘れ疲れはててしまうので、後から必ず害となることが多い。『老子』に「腹の為にして目の為にせず」というのは、こういった意味である。

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多紀元悳『養生大意抄』(国立公文書館内閣文庫所蔵)より、筆者による意訳。原文は最下部。

2.何事をせんにも節(ほど)あり

「せつなく苦しいのに無理をする」と書かれているように、江戸時代の人も心身を削られるような疲れ方をしていたのだろうか。その気分転換のひとつとして、春の花や、秋の月など自然に遊ぶことがすすめられている。

さて、正月に逆に疲れるという問題だが、ここで言われているように、楽しいことは、疲労を感じなくさせるので、ついつい過度に長時間やってしまう。そしてその遊び疲れは後からジワジワとくる。

これは私も経験済みで、年末から正月にかけて、『あずみ』という漫画を、全巻一気読みしたことがあった。漫画の内容がシリアスだったのも関係するが、結果、頚や肩がガチガチに固まり、普段より疲れた状態で、正月を終えることになっていた。

私の場合は漫画だったが、テレビやスマホを延々と見続ける、ずっと食べ続ける、飲み続ける、ゲームをし続けるなど、人によってさまざまだろう。

原文の冒頭には次のような言葉がある。

「何事をせんにも節(ほど)あり」

年末のうちに、この言葉を頭の隅っこにおいて、今回の正月は適度に楽しんで、快適に仕事始めを迎えたいと思う。


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3.原文

○凡何事をせんにも節あり。せつなくくるしきを強てなせば、神気を傷(やぶり)又は筋骨を傷る。此故に若くるしくこらへがたく覚ば、はやく息(やめ)暫く安めて保養し神気筋骨稍(やや)旧(ふるき)に復するを待て再(ふたたび)なすべし。時に或(あるいは)閑を偸(ぬすみ)て春の花秋の月に興を催し、又は遊山玩水抔皆心気を暢舒(のびやかに)して鬱を解に似たれども、程を過又は常になれば却て害(かい)あり。たまたまにして暫しの間なるをよしとす。総て面白(おもしろき)と思(おもう)ことは、吾身の疲労するを覚えず。前後を忘果(わすれはつ)るに至る故後必(かならず)害となることおおし。老子に腹の為にして目の為にせずといへるは、是等の義なるべし。

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多紀元悳『養生大意抄』(国立公文書館内閣文庫所蔵)より、筆者による翻刻。

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