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『養性訣』解説 - 江戸の養生書を読む 01

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江戸時代の名医、平野重誠の『養性訣』の翻刻と、内容の解説をしていきます。
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#健康

養生のさまたげになる5つのこと ー 養性訣解説01

自己管理ほど難しいものはない。食べ過ぎや飲み過ぎが健康に悪いのは、誰でも知っている。何も最新の科学的なデータなどを持ち出さなくても、もうすでに当たり前の事実だ。なのに実行は難しい。 結局のところ、予防可能なたぐいの病気になってしまうのは、自制心の問題なのだろう。 特に現代人は身体に悪いことばかりしている。現代人は食事や睡眠や運動を全くコントロールできない。現代人の心は常に動揺している。現代人は・・・。 どの時代の人も今の世を憂うこのように今の世人を憂うことを、昔の人も同

食材や薬材の性質の偏りについて - 養性訣解説04

健康増進のために、私たちは何を食べるとよいか? 東洋医学従事者としての私に向けて、時々こういった質問がくる。実はなかなか難しい問いで、いつも気のきいた答えがみつからない。これは東洋医学的にみて、誰にでもよい健康食材がそれほど多くないからなのだろう。 通常、東洋医学的な食養生は、個人の体質に合わせて行われる。症状の同じ人が集まったとしても、全員に同じ食材をすすめることはなく、個別に効きそうなものを選ぶ。 例えば身近なものだと、スイカには利尿作用があるため、むくみによいとさ

こころのかたより - 養性訣解説05

ここ10年ほど、ほぼ新聞を読んでいない。これは私に限ったことではなく、同じような方はきっと多いだろう。 普段はほとんどスマホでしかニュースを見ず、アプリやSNSがなければ、世の中で何が起きているか、全くわからない。ネットはそれくらい情報を集める方法として、頼りになるし、頼りきっている。 好きなことをさらに好きに、嫌いなことをさらに嫌いによく言われることだけれど、ネットのニュースにはどうしても偏りが出てしまう。それは思想的な偏りというよりかは、嗜好的な偏りで、ほとんどのウェ

眠りすぎの江戸の人から、睡眠不足の現代人が学ぶこと - 養性訣解説08

今回の養性訣解説は「睡眠」について。睡眠というと、現代では睡眠不足が問題になることが多い。 一方で、江戸時代の養生書である『養性訣』では、睡眠不足よりも、過眠の害を説いている。恐らく江戸時代は、慢性的な睡眠不足の人は、現代よりもはるかに少なかったのだろう。 では睡眠不足の現代人は、眠りすぎの江戸時代の人から、何を学び取ることができるのだろうか。まずは睡眠の役割についての部分を読んでみよう。 眠りは心身の疲れを癒やし、眼の食事である【原文】 眠は眼の食と古人も言(いえ)ば

理想の腹はどんな腹? - 養性訣解説09

「腹の内をさぐる」「腹がたつ」「腹がすわる」など、心情を表す慣用句には「腹」という言葉がよく使われる。東洋医学においても腹は重要視されているが、今回の養性訣解説のテーマは腹と心身の安定について。 言葉の上でも関係の深い腹と心を、心の健康を重視する『養性訣』では、どのようにとらえているのだろうか。 理想の腹の状態腹は全身と関係しており、その腹にも理想の状態がある。腹はお臍を境にして上下に分けられ、『養性訣』では下腹が充実し、上腹部は綿のように柔らかいのを良い腹とする。 こ

江戸の伎芸から学ぶ、よりクリエイティブになる方法 - 養性訣解説12

養性訣解説は今回が最後になる。 これまでをざっと振り返ると、毎回、平野重誠著の『養性訣』の中から、心身の健康を取り戻すための、方法や考え方を解説してきた。最終回である今回は、いつもと違い健康の話だけでなく、仕事にも応用できる内容を紹介する。 今回読んでいくのは、『養性訣』下巻の最後の部分になる。ここには日常の立ち居振る舞いや、意識を少し変えることで、伎芸の質をあげていく方法が記載される。 現代的な言葉になおすと、よりクリエイティブになるための、体と心の使い方だ。ではいつ

『養性訣』全文入力やっと完了 - 養性訣解説 あとがき

『養性訣』本文の全文入力がやっと終わり、家庭の東洋医学ウェブサイト上で公開しました。 noteで連載していた養性訣解説は、『養性訣』の隅から隅までガッツリと解説してはいませんので、他の部分も気になる方は、ぜひ一度通してお読みになってください。 養性訣解説で触れなかった内容は、現代の医学常識からみて、明らかに迷信じみたものや、不思議な話の類いですが、読み物としては大変興味深いものなので、お好きな方は楽しめるかもしれません。 原文は江戸後期の日本語なので、古文などの知識がな