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それでも人とつながって 007 非行気分1

『心配だから見てきてくれよ』


元気な幼馴染たち。もちろん全員がそうではないけど。力を持て余して親や先生を困らせてしまう。自然とそんなタイプで集まるようになる。いつも皆で誰かの家に居る。何か思い立つと皆で出かける。家に居ると誰かが来る。そんな毎日。特に何かがある訳でもないような毎日。そんなある日、友達の家に皆で居ると一人の幼馴染が『ちょっと心配だから見てきてくれよ』と駆け込んできた。

幼馴染はタイプが違っても仲は良いままなのが後々になって不思議だったけど、小さい頃から見知っているときっとその場の相手の行動だけじゃなくて、もともとの中身を見知っているから少し見え方が違うらしい。だから傍目には派手な子と地味な子に分かれて見えても自分達の中はそうではないことをお互いが分かっていた。また自分達は良い見た目ではなかった。それでいて大した中身もないのに見た目で判断されることには凄く抵抗を感じていた。抵抗を感じるのに見た目や行動を改めようとはしない。どこにでも良くある話し。

勉学一筋。本人も好きでやっていた訳ではなく親の影響もあったんだろうけど勉学一筋のような子たちとも仲が良い。普段の行動は別々なんだけど、久しぶりでもどこかで会えばさっきまで一緒に居たように話す。そんな子たちとは見た目も行動も通う学校も違ってくる。でも通学路はある地点が共通していたりする。自分達の何かが違っていっても小さな時から変わらない関わり方が続く。

駆け込んで来た元気な幼馴染の一人が通学路で勉学一筋な子を見掛けた。久しぶりだったので声を掛けようと近づいて行くと、その子の周りに見掛けない数名が纏わりついているような感じだった。良い雰囲気では無かった。それで冒頭の言葉に繋がる。

それは面白そうだ。皆で居るとそんなふうに思ってしまう。皆も同じようだった。でも一人だったらどうしようか考えてしまうだろう。今日駆け込んで来た幼馴染の行動と同じだった気がする。でも皆で居るのですぐに皆でそこに向かう事になる。

居なくない?いや、居たんだって。というやり取りがあった。良からぬことを考えているのなら人目につかない所に移動するだろう。何らかの思惑を果たすために。とりあえずその辺を見回ってみるかということになる。決めたわけではないのになぜかバラバラに。よしと皆が皆と別れたが一人になると何となく心もとない。この辺も皆と共有していたのかも。

適当に建物の裏などを気にしながら歩くがそれらしい気配はない。だんだん時間も経ったので皆と別れた場所の方へ戻ることにした。途中途中で他の幼馴染と自然と合流する。誰からともなく居ないよねという話をしていると、一人の幼馴染がこちらに走って戻ってきている。なんだか随分と一生懸命走っている。速い。本気な感じがした。そして自分達まで通り越しながら「来い来い」と言っている。皆でついていく。同じ調子になって走る。暫く行って建物の裏の方に回ってようやく止まった。

自分達を通り越した張本人は息を切らしている。自分達も少し息が上がっている。少し経ってようやく自分達を通り越して走り去りそうになった幼馴染が切れ切れに話し始める。

最初は歩いて探していたが、少し行くと不穏な感じの声が聞こえたので猛ダッシュでそちらの方向に走り出した途端目前にその集団がいた。驚いて走りながらジャンプしてしまった。ジャンプした先に偶然その集団の一人が居て飛び蹴りのような技が決まってしまった。相手は結構な勢いで転倒していた。ますます驚いたので走って逃げてきた。何人か後を追いかけてきたような気がする。そんな内容をのこと急いで話して膝に手をついて下を向いて黙った。まだ少し息が荒い。

息を呑んで皆が次の言葉を待っている。
ようやく重そうに顔を上げて言った「心配だから見てきてくれよ」
みんなで「何をだよ」ふざけんなと言い合って大笑いして自然と解散となった。
その瞬間に前後の出来事はもう気になっていない。終わったことになる。
この頃って全てがこんな感じだった。


これは非行気分の巻の一。この後に続く体験はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。







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