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それでも人とつながって 012 酒天1

『暴走族の総長になれば良いんじゃない?』


色んな出会いがある。出会った先に出会いがある。知り合って見ると相談を持ち掛けられるようになることがある。自分なんか何も出来ないのだけど。
色んな人とのつながりで自分の存在があるような気がする時がある。
でも。人の様々な状況や人の在る様々な形を見知ると悩む事もある。
だから話を聴かせて貰う。でもどうすれば良いのかと思い悩む。

そんな悩みをある友人に打ち明けてみた。「好きだね」と笑っている。
人の笑い事であるようなないような。それでも自分にとっては悩みのタネ。
自分のことでも無いのに気付けば正面に見て考えてしまう。
そうかそうかと友人はまだ時々笑って頷きながら「らしい!」と言った。
良くない意味で面白がっているようにも見える。

自分に何か力があれば良いんだけど。そんなのは無い。それでも見知った事を放っておけない気になるし、出来事が向こうからやってくることが多い。
それを自分からは取りに行かないって事だけ決めているんだけど。
どうすれば良いのか。

「わかったわかった」と友人は笑いを収めて少し間を置いて。
何か考えながら言葉を続けた「暴走族の総長になれば良いんじゃない?」

突然の思わぬ提案。その意外な言葉を聞いてこちらも暫く考えてしまう。
暫く考えたけど。どうもふざけてるのでは?としか感じられない。
いや、ワナか。そう見せ掛けて。本当は深い意味があるのかもしれない。
牽制が必要な気もするがここは素直に「なんで?」と尋ねてみた。

「なんかホラ、そういうのテレビでやってるじゃん。荒れている若者に手を差し伸べるとか」確かにテレビでそういうのはやっているのかもしれない。
「そういうテレビに出ている人って必ず元暴走族の総長ってなってるよ」

そんなのよく見てるんだなと思いながら。
でもやはり意味が分からないので「それが・・・なんで?」と尋ねる。
「だから。お前も活躍するには暴走族の総長になるしかないんだよ」
「答えが示されているだろ。そこに。テレビでも」と念を押している。
いや・・・お前は何を言ってるんだよ。

そもそも未だに暴走族なんて居るんだろうか。自分達がわんぱくだった頃には既に少し古臭く口にするのも気恥ずかしい存在になって行っていた。
でもしかし。言われてみるとテレビでの若者支援とか更生的な何かとか。
手を差し伸べる側として活躍している方は必ずと言えるほど「元暴走族総長」という肩書が紹介されている気もする。それはそうなのかと思う。

それにしても今更に暴走族の総長を目指してなれるものなのか。
適齢期もだいぶ過ぎてしまったような気後れもある。
未だ何処かに生き残っているチーム等はあるのだろうか。
いや、ありそうにない。もしあったとしても相手にしてもらえないだろう。

年配のルーキー。しかもその実はテッペンを目指すのだ。相当無理がある。
イカレてるどころの騒ぎではない。

どうすれば・・・。そうか、無いなら自分で作れば良いのか。
そう思って「もしチームを作ったとしたらお前さ・・」と言いかけた途端「お前はそんな考えだから総長になれないんだ」ピシリと言われた。
「なれやしないんだ」と釘まで刺された。

お前も大概だけどな。そう思いつつ、ならどうすれば良いんだよと言った。
目の前に居るこの幼馴染である友人も思春期前後には今の姿からは想像も付かないような見た目や行動をしていた。派手で乱暴。でも温かい。
そんなの誰も想像出来ないだろうな。変われば変わるもんだなと思った。

友達が真面目な顔をしている。ちょっと真剣な顔になると昔の雰囲気が出る。
なんて言ってくるかなと待ち構えた。目に力が湧いてきているのが分かる。
そして。お前の為を思って言うぞと前置きをして
「なれよ。今からでも総長にさ」と言った。
・・・ちょっと待って。どうも意味が分からないぞ。デジャブかな。
なれと言ったり、そんなんだからなれないと言ったり、なれと言ったり。

拗ねた気分でナンナンダヨと返すと「バカだなぁ」と愉快そうに笑っている。お前はそんな簡単なことも分からないのかと。
そしてこう言われた。今日からお前はさ・・・
いつでもどこでも「自分は元暴走族で総長でした」って言えば良いんだよ。

「断る」

こんなやり取りがあり。帰宅してからもそういえばなあと考える。
そういえば。なんで若者支援とかひきこもり支援とかしているテレビで紹介されるような著名な方々はみな揃って「元暴走族の総長」なんだろう。
元総長たる者の宿命なのだろうか。それは運命なのか。

別れ際の友達の言葉を思い出す。
「でもな。本当にそうだったらあまり言わないんじゃない?」
ん?それは経歴詐称ってこと?と問うと、じゃなくてという素振りをして
「言える程度なんだよ。多分」と返ってきて、「あぁ」と思った。
なんだか妙にどこか納得するような感じがした。

テレビ的な何かもあるのかもしれない。

ここにはこんなふうに書いてしまいましたが。
各方面で活躍されている元総長の方々には心から畏敬の念を抱いています。

これは酒天の巻の一。この後に続く体験はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。


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