マガジンのカバー画像

清流紫暁 詩集「暁月」

27
清流紫暁の詩集「暁月」です どうぞお楽しみくださいませ noteに発表した順に26の詩が漂っています
運営しているクリエイター

#詩

ゆめみ

ゆめみ

ぼくの
かなしい木造建築は
いったいどこへいってしまったのだろう

昔は
木の上にひとり
こっそりと家を建てて
静かな暮らしを送りたかった

そんなものはみんな
できねえよ
と思いは砕かれ
諦めたのはいつだろう

今は
時折外に出ては
人工音の何もしない自然の
中で私(し)をかくのをゆめみている

このぐらいは
ゆるしてほしい

かなしい木造建築のかわりに
綺麗な私(わたし)のゆめをみておくから

もっとみる
酒浸り

酒浸り

ふりつもるあめは硝子の玉
すべての面で反射して
空色の虹色のひかりを放つ

じめんにささるつららは戦場の槍
雪を返り血にして
にぶく輝く

わたしのめにうつるは命の色
母なるそらを見透かして
そろーりすんと、めを……

春を喰らう

春を喰らう

はらりはるはるちるちるらん
桜が舞い散る春日和
あなたは遠くにゆくのですね
私をおいていくのではなく
「ついてこい」と
言わんばかりのその手にひかれ
私は前へ進み出す
その日は曇っていたけれど光芒が地面を照らしていて
へたに晴れているよりもよっぽど素敵でした
濡れた蓮華の葉が輝いて
あなたの顔を照らしていました

(卒業を迎えた皆さんへ)

太宰府の桃の花

太宰府の桃の花

桃色の蕾が色付く頃に
梅は花開く
飛び梅が散る頃に
桜は染まる

もう梅の花はないのだろうと
池をのぞけば
頬に花弁が張り付いた
上をみればもう梅の花はない
それが最期の一粒だったらしい

玉は頬に染み込んで
梅のにおいを香らせた
(二○二二年三月三十日)

くもの在処

くもの在処

田舎の電柱にくもはすむ
好んでそこにすんでいる

どうして君らははらうのか

夕に立って見てごらん

そろりぱらりと
ほの様に
私らの巣はひかる

朝に発って見てごらん

つるりつゆりと
雨どいみたいに
私らの巣は露草になる

どうかはらわず見ておくれ

でんでんむしむし

でんでんむしむし

むらむら
のろのろ
てらてらを

つんつん
ちょんちょん
ぴっぴっと

じゅぶじゅぶ
じくじく
でろんでろんと

雨の日らんらん
ちろんちろん

鈴をならして
てんとんたん

水素の花火

水素の花火

はめを外しててんとんたん
あめを降らしてとんとんてん

傘をさしましょ
あめが降る

さあさ
狐の嫁入りだ
粒を真っ赤に染め上げて
青白い水素の玉を
傘にあてましょ

手に当たっても音はしないのに
傘では音がなっている
ひゅーとんぱちぱち
ひゅーとんぱらぱら

小さな花火が傘をつく

色彩豊かなあいのうた

色彩豊かなあいのうた

優しいあの子の左手が私をすり抜け地へと地へとおちていく
ふーっとあの子の指先から
透明でいて輝いているぼんやりとした光の粒がふってくる
そうして芝生のにおいを運ぶあの風に吹かれ上へ上へと舞い上がり
私の中へとびこんできた

これがあの子の魂なのだ
きっとそうだ、あの子の味だ

私にしみ込んだあの子の形は白く明るくとけてゆく
–––––青白い涙をもつつみこみ桃色の花を咲かせよう
–––––あの灰色の

もっとみる
とびたいの

とびたいの

空より高くとびたいな
宇宙は魅力的だもの

雲より高くとびたいな
お日様たくさんあびたいもの

屋根より高くとべたいな
風をいっぱいあびたいもの

高跳び棒をこえたいの
褒められたいんだもの

あなたの壁をこえたいの
猫かぶりは嫌いなの

だから私はいつもとぶ
ぽーんぽんぽんぴょーんぴょん

決別

決別

“力強い目”と言うのはこういう事であろうか
私は眼下の女性をこう表現する

私の目はどんよりと光すら灯っていないというのに
貴女の目はそんなにも輝いている!

少し茶色がかった髪も目も私と同じはずなのに
貴女は白く輝いて眩しいのだ

私が何を間違えたというのか
普通に働き銭を稼ぎ食って寝る
これの何がいけないのか
一人の何がいけない
教えてくれよ

“さようなら”

そう不意に聞こえた声に上を向く

もっとみる
紫暁

紫暁

夜明けの太陽が見える少し前
雲がぱっと若紫に染まる
形、濃淡を変えながら紫がかっていく

次第に草、木、川も染めていく
水を覗けば優しくあかがめを出した

嗚呼、彼方から色がなくなってゆく!

嗚呼、美しきものよ!
消えないでおくれ!

隠れてよいからその姿をまた再び私に見せてくれ!

これが私の名前の由来です
皆さんにも見ていただきたかった…!

怒りなき猫

怒りなき猫

かなしい猫がないている
「夜明けを見たい」
そうつぶやいて
星と一緒に沈んでいった

うれしい猫がないている
「暗闇を見たい」
そうつぶやいて
黒と一緒に沈んでいった

たのしい猫がないている
「泥水が見たい」
そうつぶやいて
光と一緒に沈んでいった

猫は怒っていなかった

空蝉

空蝉

サーサー降る雨のかおりが
道にはえる草のかおりが
どうにもこいしくってたまらない

地面を踏んだ獣のにおいが
漁協にある氷のにおいが
どうにもこいしくってたまらない

母が作った手料理のかおりが
父が飲んだ梅酒のかおりが
どうにもこいしくってたまらない

寂しさに流した涙が
枯れかけたさくらんぼが
どうにもすっぱくてたまらないのはどうしてだろう

俺は猫

俺は猫

猫が何も無い空間を見ている
見ている
見ているのだ

ナンナロナンナンナオナンナン

人の目には見えずとも
猫の俺には見えている
よどみ、けがれ
それは必然的に何も無いところへわたっていく
俺達はただそれを見つめているだけよ