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妄想練習002: 失われた黄昏

なるべく毎日(※すでに全然毎日ではない)800字以内の小説を完結させる、それが妄想練習。題材は自分のInstagram。写真にそれっぽい物語をつけます。通し番号を振っていますが、それぞれが独立した短編です。

 四年次の夏期校外学習の前に恋人がいなかったら女として終わりだと、女子のあいだでは、まことしやかにささやかれていた。
 夏が近づいて、日がな一日青くなったり赤くなったりしていたあたしを、同じクラスのメガネ(前時代的ツールすぎる)が鼻で笑った。
「終わりって何が? そんなしょうもないこと、さも真理みたいに吹聴するのは、意味があるどころか有害だよね」
「うるさいなぁ、もう」
 顔がよくて有名な男子が夏前にたまたまひとりになると、同じ願いをもつ女子が列をなしたけれど、一喜一憂するのに忙しくて出遅れたあたしはすっかり最後尾。断ってすらもらえずに、校外学習の日はやってきたのだった。
 行き先は、失われた風景を再現したテーマパークだ。熱気に包まれた塩の海に水着で浮かんで眺める夕日は、いつかどこかで見たような気がして、あたしはつくりもののオレンジの光から目を離せない。
 夕日に照らされた水の上で「終わら」なかった子たちがうっとりすごしていたけれど、惨めになっている暇はなかった。
 あまりに強烈な光で、目が痛い。
 でも、このまま眼球が燃え尽きても、あたしはやめないだろう。嘘の太陽じゃ、燃え尽きないのはわかっていたけれど。
「ここからずっと西の国で、昔ほんとうにあった風景を『記憶』として再現しているんだよ」
「『記録』じゃなくて?」
「『記憶』のほうがずっと美しいからね。制作者がイメージする過去の『記憶』の絵、といえるかな」
 夕日に気をとられているうちに、近くに男の子が来ていた。目が眩惑されていたあたしは、少しだけ腕と腕がかすめた相手に、あんた誰? と訊く。瞬きすると、ようやく目が見えてきたけれど、見覚えのない顔だ。
「実際に『終わって』みて、わかったんじゃない? そんなことじゃ、何も終わらないんだって」
 塩でフレームがさびるのがいやなんだと、見知らぬ男子はいいわけがましく言うのだった。

(787字)


妄想練習の経緯については↓


今回のアイディアメモと構成

目が焼けそうなのに目を離せない
なぜそれほどに感動したのか?
失われた風景の記憶、誰と見る?
高等科に進んだら、校外学習で行くテーマパーク
失われた黄昏
起 校外学習までに彼氏がほしいマリカ、バカにするメガネ
承 どうせならイケメンがいいと特攻、負ける
転 ひとりで校外学習の日を迎えてしょんぼり
結 メガネがメガネを外して横にいる。「あんた誰?」


作者コメント

毎日どころか月一になりそうな妄想練習。続いていればよしである。もういい歳なので、このへんあきらめは早い。同時に、ある意味あきらめは悪いのだが。書いていて、ベタだ、ベタすぎる、と思ったが、坂口恭平さんのtwitter等を見て、クオリティの問題は放っておけ! アウトプットするのだ! と奮起。ところで今回、主人公のポップな感じから、ポップな言い方(「イケてる」など)を使ってみたのだが、これ怖い。絶対歳がバレる。耐えきれずに言い換えた。勇気が足りない。それと、またしても名前は出せなかった。

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